更新日:2023年04月18日 11:21
エンタメ

占いサイトの奴隷と化したおっさんと、夏の終わり――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第58話>

占いサイトを盲信する山本さんが導入した”セカンドオピニオン制度”

 そのサイトを見せてもらったが、特に深い占い理論とかがあるわけではなく、どこかから取ってきた単語群の中からランダムに表示しているらしく、僕がアクセスしたときなど「ラッキーアイテムは株券」と表示されたほどだった。そんなもの、おいそれと用意できるものではない。  ただ、山本さんも最初こそは信じていなかったが、ある時に「ラッキーアイテムは雨」と表示され、そもそも雨はアイテムなのかと疑問を抱えつつ、街を歩いていると本当に雨が降ってきたそうだ。そして、雨宿りにと宝くじ売り場の軒先に立ち、雨を避けるだけでは悪いからと適当に勝ったクジで10万円当たったらしい。  それから、このサイトの占いを信じる日々が始まった。「ワイングラス」と表示されればワイングラスを持ち歩いたし、「お母さん」と表示されれば津田沼からお母さんを呼び寄せた。果たして「お母さん」がアイテムなのかという問題が残るが、それでも山本さんは信じ切っていた。お母さんは突然呼びつけられて憮然としていたようだ。  そんな山本さんだが、次第にそのサイトに対する不信感に気づき始めていた。僕としては「機関銃」の時点で気づかないとおかしいし、そもそも「雨」「お母さん」の時点でアイテムか? と気づかなければならない。けれどもそんな鈍感な山本さんでも決定的に違和感を持つラッキーアイテムが表示されたのだ。  「ラッキーアイテムは肝臓です」  まあ、だいたいみんな持っている。ラッキーであろうがなかろうが、よほどの事情がないかぎりだいたい携えている。  山本さんも「肝臓、あるよなあ」と考え、もしかしてこれはどこかから取ってきた適当な単語を表示しているだけじゃないか、占いじゃないのかもしれない、と考えたそうだ。  それから山本さんに会うことはなかったが、こんな雨の日だ、憂鬱な気持ちを抱えながらオレンジ色の電車に乗っていたときに山本さんに会った。ポンポンと肩を叩かれ、振り向くとそこに山本さんが笑顔で立っていた。  「久しぶりじゃない。会えてよかった。やっぱラッキーアイテムだな、オレンジは」  屈託のない笑顔を見せるその山本さんの「ラッキーアイテム」という言動に、まだ占い信じてるんだと感じた。  「今日はあのビルまで行くんよ」  山本さんはそう言って遠くのビルを指差した。車窓から見えていたはるか先のビルだ。なんでそんなところに行くんだ。そもそもあそこ行くならこの路線じゃないだろ、もう一つ北の路線だ、と思うのだけどそうじゃないらしい。  ラッキーアイテム肝臓事件から占いサイトに対する不信感を募らせた山本さんだったが、そこで占いサイトを見限るのではなく、セカンドオピニオン制度を導入したらしい。どういうことかというと、別の占いサイトを見て、そこも参考にすることにしたようだ。けっこう明確に言わせてもらうけど、バカなのかな、山本さん。  そして片方のサイトでラッキーアイテム「オレンジ」、もう片方のサイトで「遠くのビル」と相変わらずアイテムといえるのか定かではないめちゃくちゃな表示がされ、オレンジの電車から見えるあの遠くのビルしかない、と目指すことにしたようだ。
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山本さんはやっぱり明確なバカだった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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