ライフ

夏の花火と廃工場、そして”ジャンプおじさん”――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第56話>

 昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第56話】土曜日の夏花火  土曜日になると思い出すことがある。  あれからもう何十年と経っているのに、どうしてもこびりついて離れない。これはもうある種の呪いじゃないかと思う出来事だ。そう、今みたいに暑い夏のお話だ。  あの夏、毎週土曜日になると駅に長蛇の列を作っていた。1人や2人じゃない。それこそ、100人、200人は並んで、アホ面下げて列を作っていた。列車もほとんど来ないような片田舎の終着駅に、こぞって行列を作っていたのだ。田舎町での100人の行列は都市部での1万人ぐらいの行列に匹敵する。それだけの大事件だった。  僕が中学生だった当時、「週刊少年ジャンプ」(集英社)という漫画雑誌がとんでもない猛威を振るっていた。いや、今でも猛威を振るっているのだけど、当時はさらに一段上の猛威だった。  ドラゴンボールだとか聖闘士星矢だとか、現在でも僕らの心に巣食う漫画たち、それらを上から並べていったら当時のラインナップになる。そのレベルだった。考えうる限り最強のラインナップがそこにあったのだ。当時はみんな週刊ジャンプを読み、その発売を心待ちにしていたのだ。  ジャンプの発売日は通常、月曜日だった。けれどもなぜか流通の関係なのか、最も早く到達する駅の売店だけ2日早い土曜日の午後3時には売られていた。いわゆる早売りというやつだと思う。小さな田舎町なので、その早売りの噂はあっという間に町中を駆け巡り、人々がジャンプを求めて午後1時くらいから行列を成すようになった。田舎町に訪れたちょっとしたイベントだ。  「土曜日にジャンプが読める」  それはまるで未来の世界を覗いているかのようで、随分と刺激的なものだった。もちろん、手に入れたジャンプはとても面白いものだった。  噂が噂を呼び、その行列はどんどん膨れ上がっていった。最終的には数も分からないくらいになっており、駅舎を飛び出して定食屋あたりまで延々と列が伸びていた。定食屋のオヤジが店の前を塞がれてめちゃくちゃ怒っていた。  こうなるともうちょっとした社会現象だ。最終的には入荷分のジャンプが瞬殺で売り切れるまでになっていた。それがさらに「早く並ばないと手に入らない」と焦りを生み、行列に拍車をかけた。  その行列の中に、“ジャンプおじさん”がいた。
次のページ 
おっさんは金がないくせに早売りジャンプの行列に並んでいた
1
2
3
4
★連載1周年記念! おっさん総選挙“OSN57”開催中

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事