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占いサイトの奴隷と化したおっさんと、夏の終わり――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第58話>

山本さんはやっぱり明確なバカだった

 占いにセカンドオピニオン制度を導入したことにより、2つを比べて参考にするのではなく、両方信じざるをえなくなってより複雑で、めちゃくちゃなことになっていた。もはや「肝臓」「摘出」と表示されたら取りかねないくらいの勢いだ。  「僕は次の駅で降りてあのビルを目指すから。一緒に来ない?」  そう誘われるままに僕も次の駅で降り、一緒にあのビルを目指すことになった。けれども、駅を降りた瞬間にそのビルを見失い、よく分からない方向を行ったり来たり、おまけに雨足も強まってきて、傘をさしているのにずぶ濡れの状態になってしまった。  僕らが持っている情報は、車窓から見えた「遠くのビル」という情報だけで、地図アプリで見て、だいたいこっちの方角でこの辺だろう、というのは分かったので進もうとするのだけど、シャレにならないレベルで雨が強まってきて、雨宿りの軒先から身動きが取れない状態になってしまった。  「山本さん、どうするんですか? このままじゃ進めませんよ!」  大声を出さなければかき消されてしまいそうなほどの雨音だった。  「待ってくれ! 今調べる!」  山本さんはスマホを出す。いや、もう地図アプリとかで調べたから方角とかは分かってますよ、問題はこの雨の中でどうやって行くかなんです、と言おうと思ったが、山本さんは占いサイトを開いていた。この苦境を打破するために占いに頼るらしい。  「ラッキーアイテムは右足らしい! 右足から歩き出せば大丈夫だ!」  明確に言わせてもらうけど、山本さん、バカなのかな。  「分かりました、右足ですね! 行きましょう!」  もうどうでもいい。そもそも「右足」がアイテムなのかすらどうでもいい。歩き出してうまいこと駅に誘導して諦めさせようと雨の中に飛び出すと、山本さんはまだ動こうとせず、スマホと睨めっこしていた。  「なにやってんですか、行きますよ」  急かす僕を山本さんは右手で制した。  「ちょっと待ってくれ、もう一個のサイトのほうも見てる!」  セカンドオピニオンだ。明確に言わせてもらうけど、山本さん、バカなのかな。
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きっとこの雨で夏が終わり、僕はラッキーアイテムを得るのだ
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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