昭和は過ぎ、平成も終わりゆくこの頃。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか――伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート!
【第57話】おっさん悩み相談室
おっさんって悩みを相談する相手がいないんじゃないだろうか。ふとそう思った。
僕が子供だった頃、たとえば父親や親戚のおじさん、先生などなど、周りの大人には悩みなんてないと思っていた。ある意味、解脱した存在みたいに認識している部分があり、おっさんといわれる年齢は悩みから解放される到達点のように思っていた。
けれども、自分がおっさんと呼ばれる年齢になってみてわかったが、解脱なんてとんでもない。おっさんになっても悩みは尽きないし、バカげた行動をとってしまうし、オナニーだってする。そう、なにも解脱していない俗で邪(よこしま)な存在がそこにあるのだ。
そうなるとどうして当時のおっさんは悩みのない存在に見えたのか。これはもう、おっさんがそういった素振りを見せていなかったというほかない。
多くのおっさんは悩みを相談する相手がいない。家庭で持つ父という立場がそれを難しくしているかもしれない。ある程度の地位になった職場では逆に悩みを聞く立場なのかもしれない。彼らの持つ責任感がそれを難しくしている可能性があるのだ。
あるいは、心を許せた友人たちとはお互いに家庭を持って疎遠になったかもしれない。
そう、おっさんは悩みを抱え込んでいる。永遠に行き場のない悩みを抱え込んでいるのだ。
ならば僕がおっさんの悩みを受け止めてやる、おっさん界のマザーテレサになってやる、ということで、悩んでるおっさん、出てこいや! とSNSで大々的に募集したところ、実に3通のお悩み相談をいただいた。
反響が莫大すぎて僕のメールボックスが壊れるかと思った。本当におっさん、悩んでいるのかな。
とにかく今日はそれらにしっかりと答えていこうと思う。
タピオカを買いたいけど買えないおっさん
【Yさん(ホークスファン)の相談】
周りの目が気になってタピオカドリンクが買えません。どうしたらいいでしょうか。
おっさんであるかどうか? を知るための重要な試金石として「タピオカ」が存在する。
タピオカは十三年に一度くらいの周期で一斉に地面から出てくる十三年ゼミのごとく、定期的に流行している。それらを眺めて「あれは十何年前にも流行して」と言い出したらおっさんである。簡単だ。
さて、また地面から這い出てきたセミのごとく流行しているタピオカだが、新宿などにいくとたいそうな行列を見かけることがある。その列は一様に若者で、女性かカップルだ。つまり、おっさんからもっとも遠い存在が列をなしているのだ。
そんなところにおっさんが並ぼうものなら、タピオカに到達する前に色々と摩耗することは目に見えている。ただの行列ではない。ただの飲み物購入ではない。これは心を摘む戦いなのだ。
しかしながら、行列を眺めているとある事実に気が付く。タピオカドリンクの店はそれこそ流行に乗って数限りなくあるが、行列がえげつない店舗と、全く存在しない店舗とに大別されているのだ。そう、これはピンサロに似ている。
ピンサロとは、いわゆる風俗店で、比較的安価で手頃な部類に入る種別だ。タピオカのストローのごとく何かを吸ってくれる。
立川駅の場外馬券場の近くに何軒かのピンサロ店があるが、昼前くらいのオープン時間になると、行列を成している光景を見ることがある。
多くのピンサロ店が細い階段を昇った2階や3階に店舗を構えるが、行列が階段から溢れてくる光景も珍しくない。かと思えば、行列が全く存在しない店舗もある。そこにはタピオカ屋と同じ差異が存在するのだ。
並んでいる連中の言い分としては、人気の子を指名する場合、早い者勝ちになるから、開店前から並ぶ、もしくは先着何名で安くなるサービスがあるから並ぶということらしい。どいつもこいつもタピオカのストローを吸ってもらおうと並んでいるわけだ。みんななんだか幸せそうだ。
ここが至極大切なのだが、多くのおっさんはタピオカの行列に並んでみたいと思うかもしれないが、多くの若い女性はピンサロの行列に並ぼうともしないわけだ。おっさんはタピオカに並べるが若い女はピンサロに並ばない。もう勝っている。
つまり、タピオカの行列を見るたびに、ああ、若い人みたいに並びたい、と感じるのではなく、俺はピンサロの行列に並ぶぞ、俺のストロー吸ってもらうぞ。なんならタピオカも出す、くらいの気概を持って生きるべきなのである。タピオカよりピンサロだ。