更新日:2023年04月18日 11:21
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占いサイトの奴隷と化したおっさんと、夏の終わり――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第58話>

きっとこの雨で夏が終わり、僕はラッキーアイテムを得るのだ

 また雨が激しくなった。まるで水のカーテンのようになっていたそれは山本さんの姿を朧げにしていた。  「どうしよう! 困った! もう一個のサイトのラッキーアイテムがありえない!」  山本さんが叫んだ。  「どうしました? 肝臓摘出とか出ましたか?」  明確に言わせてもらうとけっこうなバカである山本さん、その山本さんが困るラッキーアイテム、ちょっとやそっとじゃないぞ、と覚悟する。  「ラッキーアイテム、左足だって」  こんなことってあるの。全然関係ないサイトで見て、「右足」って表示されたから右足から歩き出そうとしたら、セカンドオピニオンが「左足」ですよ。そもそも右も左も足がアイテムかって言われたら困るんですが、そんなことってあるんですか。  「どうしよう、これじゃあ歩き出せないよ」  どちらの足も出せず、佇む山本さん。もう知らんわ、と置いて帰ることにして駅に向かって歩き出した。  「これじゃああのビルに行けないよ!」  懇願する山本さんの声は雨音にかき消されていた。  もしかしたら山本さんは今もあそこで雨宿りしているかもしれない。占いを信じるあまりどちらの足からも踏み出せず、ずっとその場にいるのかもしれない。  電車は次第に低い場所を走るようになり、あの高いビルが見えなくなり始めていた。  「ラッキーアイテムか」  なんだか妙にラッキーアイテムのことが気になってしまい、調べてみようと思った。あのとき、山本さんが見ていたサイトのことはもう忘れてしまったので見つからなかったが、まあ、特に変わらんだろうとランダムに単語を表示してくれるサイトにアクセスした。  「秋」  と表示されていた。ラッキーアイテムは秋ということか。きっとこの雨で夏が終わり、秋がくるのだ。秋になって涼しくなったら、もう一度あのビルを目指して歩いてみよう、そう思った。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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