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占いサイトの奴隷と化したおっさんと、夏の終わり――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第58話>

昭和は過ぎ、平成も終わり、時代はもう令和。かつて権勢を誇った“おっさん”は、もういない。かといって、エアポートで自撮りを投稿したり、ちょっと気持ちを込めて長いLINEを送ったり、港区ではしゃぐことも許されない。おっさんであること自体が、逃れられない咎なのか。おっさんは一体、何回死ぬべきなのか——伝説のテキストサイト管理人patoが、その狂気の筆致と異端の文才で綴る連載、スタート! patoの「おっさんは二度死ぬ」【第58話】はじまりはいつも雨  オレンジ色の電車、その車内は秋の気配に満ちていた。いつだって季節が変わるときは雨を伴うような気がする。そういった意味では、この雨の雰囲気も、傘を持つ人々の姿も、車窓を叩く水滴も、次の季節の始まりなのかもしれない。夏が終わる。なんだかそんな気がした。  高いビルやマンションが立ち並ぶ風景を抜けると、今度は似たような一軒家が立ち並ぶ風景が広がっていた。ずっとずっと、地平線の向こうまで広がってるかと思うほどに整列していてどこか気持ちがいい。  しばらくすると、その先に大きなビルが見えてきた。タワーマンションだろうかそれともオフィスビルだろうか、遠くてよく分からないがいずれにせよ、あれだけ遠いのにあんなに目立つのだ。場違いなほどに大きな建物といえるだろう。  かなり遠い。別の路線の駅前とかなのだろう、ただただ遠くに大きなビルが見えていた。それは何かを思い出させてくれる光景だった。  「そういえばあのときも雨だった」  窓を打ちつける水滴が横に流れ、はるか先に見えるその建物の輪郭を歪めていた。  ちょっと前の話になるが、こうやって電車の窓から見える大きな建物を目指して歩いたことがある。別にそこに行きたかったわけじゃない。けれども行かなければならない“何か”がそこにあった。そしてやはり、季節の終わりを告げる雨の日だったように思う。  山本さんと知り合ったのはどこかの定食屋だったと思う。特徴のない普通のおっさんだった。僕の知ってるおっさんの多くは奇異な言動を取りがちで早い話、狂っている人が多いのだが、山本さんは本当に普通のおっさんだった。ただ、それはあくまでも過去形だった。あるときを境に豹変し、まあ、狂ったのだ。  「機関銃を持ってないか?」  定食屋で唐揚げ定食を食べていると山本さんにそう話しかけられた。持っているわけがない。おそらくではあるが、世界中の定食屋を探しても機関銃を持っている客はいないと思う。紛争地帯とかならありえるかもしれないが、たぶん紛争地帯に定食屋はない。  「いやあ、ないですねえ」  驚きつつも、まるで“今は持ってないですわー”という惜しい感じで返答すると、山本さんは心底困った顔をした。  「困ったなあ」  機関銃がなくて困る場面が想像できない。乱射してここにいる客を一掃しようとでも思っているのだろうか。でもそれならあらかじめ準備してくるだろう。忘れるなんてありえない。いずれにせよ、かなり物騒な話だ。  「無差別殺人でもするんですか?」  そう質問すると、山本さんは首を横に振った。  「そういうわけじゃない。機関銃は今日のラッキーアイテムなんだわ」  聞けば聞くほど訳が分からなくなる。ラッキーアイテムと機関銃がちょっと繋がらない。  落ち着いて話を聞いてみると、どうやら山本さん、占いサイトみたいなものに夢中になっているらしい。そこで「ラッキーアイテムは機関銃」と表示されたそうだ。
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占いサイトを盲信する山本さんが導入した”セカンドオピニオン制度”
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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