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ここに告発する。僕がウンコを漏らした、南相馬鹿島SAを許さない――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第62話>

おっさんのトリッキーな動きに翻弄され……

 この構造の最も卑劣なところはこれである。みんなウンコを漏らしそうで心が弱っている。そうすると、自分の選択を信じられなくなるのだ。人が持つ弱い心をバクリ、このトイレにはそれがある。  ちょっと弱い心が出てしまい、左側の領域、つまりAとBの様子を見に行ってしまった。そうしたら、先ほど感じた禍々しきオーラは大正解だったようで、な、な、なんと、ブースBが今まさに空いたところだったのだ! 信じられないことに、予感が当たったのだ。  「やった!」  喜び勇んで駆け寄るが、さらに信じられないことが起こる。  なんと、僕の前を歩いていたおっさんが、小便かと思われたおっさんが、「お、空いてるわ」みたいな軽やかさでブースBに入っていったのだ。そんなに緊急事態でもなさそう、絶対に漏れなさそう、下手したら小便を座ってしたいから、くらいの軽やかさでブースBに入りやがったのだ。  とんでもないことだと苦悶するのだけど、別に僕は左側の領域に並んでいたわけではないので、おっさんは順番を飛ばしたわけではない。完全に早い者勝ちだ。いくら彼がライトなウンコしたさで、僕は多数の軍勢を城門で食い止めている状態と言えども、早い者勝ちだ。諦めるしかない。  すぐに踵を返す。  立ち直りが早いことが僕の長所だ。ここはCとDのブースを狙うのが得策だ。なぜなら、いまBは入られたばかりなので、実質的にはAしか可能性がないわけだ。そんな状態で待つことは愚かの極み。ここは舞い戻ってCとDを狙うべき。  右側の領域に戻ると、今まさに、Cのブースが空いたところだった。やった、計算通り! と駆け寄るが、なぜか一番奥の小便器で小便をしていたおっさんが、「お、うんこもしたろうか」と直でCに飛び込んだ。こんなことってあるかよ。  ただ、これも、僕はAとBに浮気をしてこちら側の領域を放棄していたわけだから、おっさんは悪くない。  こうして、左右の部屋で翻弄されて全くウンコができず、とんでもないことになってしまったのだ。早い話、漏らした。  こんな優しくない構造のトイレに深い憤りを覚えている。きっと、これを設計した人はウンコを漏らしたことがない人だ。南相馬鹿島SAのトイレだけの建物のトイレ、これはもう、僕らに優しくない。  もっとこう、ウンコ漏らしに優しい社会の構築、是非とも柿沢には政治家になってもらってそんな社会を目指し、こんなトイレを廃止してもらいたい。なあ、柿沢よ。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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