更新日:2023年04月25日 00:38
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ダメ人間だらけの禁煙サークルとオールブラックス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第67話>

禁煙サークルとは名ばかりの喫煙者集団がそこに

 おっさんは抜けた歯の隙間から狼煙のように煙を吐き出しながらそう言った。とんでもない場所に来てしまったんじゃないだろうか、そんな不安が体中を駆け巡った。  ただ、この狼煙おっさんなど序の口だった。いざ開始時間となるととんでもないことが巻き起こった。  参加者が次々と公民会の集会室にインしてくる。部屋の中央にはパイプ椅子が円座を組むようにして置かれており、順次そこに座っていくスタイルになっていた。  まず、入ってくる参加者が完全に示し合わせたかのようにおっさんばかりだった。おまけに直前までタバコを吸っていたらしく、一様にムンムンとタバコの臭いをさせてやがる。 「いやー、うちのが行け行けうるさいから」 「うちもですわ」 「まだ始まらないみたいだからちょっとタバコ吸ってきますわ」 「あ、ワシも、外に灰皿あったよね」  会話を聞いていると、どうやら本気で禁煙を志す人はほとんどおらず、奥さんや周囲の人に行けと言われて嫌々ながらやってきたおっさんばかりだった。禁煙どころか、5分程度の待ち時間も耐え切れずにタバコを吸いに行く。  中でもすごかったのは、少し遅れてやってきた通称「電気屋さん」だった。電気屋さんのジャンパーを着ていたのでそう呼ばれていたが、本当に電気屋さんなのかは定かではない。  その電気屋さんが初っ端からやらかした。 「おっす!」  みたいにやたら威勢良く入ってきたのだけど、めっちゃ咥えタバコだった。完全に咥えタバコだった。すがすがしいほどに咥えタバコだった。次元大介みたいにハードボイルドにタバコを咥えて禁煙サークルにインだ。こんな豪胆なヤツみたことねえ。  この電気屋さんが来た時点で、おそらく行政の人だと思うのだけど司会的な人が登場してきた。その司会的な人が開会を宣言し、ついに禁煙サークルがスタートとなったのだ。  司会の人は急にかしこまった口調になり、滞りなく会を進行させていく。 「それではみなさん、禁煙でどんな苦しい想いをしているのか語っていきましょう」  のっけから冗談がきつい。ここにいるやつ、ほとんどがタバコの臭いをプンプンさせてやがる。我慢せずに好きなだけ吸ってやがる。苦しいもクソもない。自由を謳歌してやがる。そんなやつばかりだ。 「いきなり全部やめるのはきついんで、食後の3本だけにしました。今のところあまり苦しさは感じないですね」  僕が正直にそう告げると、「食後3本だけなんてマジか」「昼食後だけで3本は吸うよな」「狂ってる」みたいなどよめきが起こった。こいつら本当に何しにきたんだ。  こうやって順番に禁煙に対する想いを話していくのだけど、何度も言ってるように、みんな禁煙なんてしていない。でもなぜかそういった空気は読めるらしく、平気で嘘8000の告白をしていく。 「本当にきついです。寝ても覚めてもタバコのことばかり」 「でもこれを乗り越えれば」 「絶対にタバコをやめたい!」  と、口からタバコの臭いをプンプンさせて言うわけですよ。なんなんだこいつら。
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突如、現れた美マダムの告白におっさんたちは……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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