更新日:2023年04月25日 00:38
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ダメ人間だらけの禁煙サークルとオールブラックス――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第67話>

マダムに気に入られたいあまり、おっさんたちがついに暴走

 次の週の禁煙サークルでのことだった。  いつもよりちょっとだけ遅れて禁煙サークルに行くと、本当に意味の分からないことになっていた。マダムと行政の人だけが椅子に座り、他のおっさんどもは立っていて、電気屋さんを中心にフォーメーションを組んでいる。  それでもってよく分からない踊りを披露しているのだ。  それが完全にオールブラックスのハカみたいな感じで、何かに耐えるようにして気合を入れて踊っていた。 「なんなんですか、あれ」  行政の人にそう訊ねる。 「タバコを我慢できる踊りだそうです」  なんでも電気屋さんがどこかで吸いたい気持ちを抑える踊りみたいなものを教えてもらったらしく、みんながそれに飛びついて踊り始めたそうだ。 「吸いたい気持ちがなくなってきた!」 「もっともっと踊れ!」  オールブラックスたちの踊りはビートを増していく。ますます意味不明な踊りになっていった。MPとか吸い取られそう。  それに引いてしまったのか、次の週からマダムは来なくなってしまった。たぶんこんなバカげた集まりに参加しても禁煙できないと悟ったのだろう。至極真っ当な判断だ。  それに呼応するかのようにおっさんどもも来なくなり、サークルは自然消滅となった。  あのハカを踊っていたおっさんどもは無事に禁煙できたのだろうか。電気屋さんは禁煙できたのだろうか、そのあとも時々は思い出していた。  つい先日、コンビニの前のベンチで電気屋さんを見かけた。10年ぶりだ。電気屋さんは相変わらず電気屋のジャンパーを着ていたので、たぶん本当に電気屋なのだろう。たぶん僕のことは覚えていないだろうから話しかけはしなかった。  電気屋さんは、おもむろに電子タバコを取り出し、心ゆくまで吸っていた。電子タバコ、僕が吸っていた時代はなかったものだ。やはり、吸わなくなったこの10年でタバコを取り巻く世界を大きく変わっている。  電気屋さんはスマホで誰かと話しながら電子タバコを吸っており、 「電子タバコはタバコじゃねえからな、何本吸おうが禁煙成功よ」  と語っており、電気屋さんは変わらねえなあ、と思ったのだった。 ロゴ・イラスト/マミヤ狂四郎(@mamiyak46
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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