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コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

なぜか「面白い話」を要求される

「何か面白い話をしてよ」  おっさんはいよいよ胸板あたりを拭きそうな気配を見せながらそう言った。いきなりハードルが高いことを言いやがる。 「え、なんでですか?」  僕が驚いた表情を見せると、おっさんも同じく驚いた表情を見せた。 「え、コメダって二人で行って楽しい話をする場所じゃないの?」  おっさんは全くもって信じて疑わないといった様子でそう言った。そう、これがおっさんだ。  コメダに来ている人が楽しい話をしていないわけではないが、別にそれはコメダに限った話ではない。楽しい話をする人はどこでもするし、逆にしない人はコメダでも陰鬱としている。  なのに、どこかから曲がって伝わった情報により、コメダでは楽しい話をするものと信じて疑わない。その情報の偏り方がおっさんがおっさんたる所以なのだ。 「いやあ、そういうもんだって鈴木さんが言ってたし」  鈴木さんとはパチンコ屋の常連仲間だ。ジャグラーが1日に100回大当たりすると爆発してその破片により島の人間が全員死ぬ、とガセ情報ばかり流している人だ。ジャグラーは1日100回大当たりしないし、爆発もしない。そうか、あの人ならこんな情報を流すのも納得だ。  まあ、せっかく来たのだし、別に楽しい話をすること自体はやぶさかでもない。 「じゃあ話しますよ。どんな話がいいですか?」  僕がそう言うと、おっさんは少し考える素振りを見せた。 「そうだなあ、わけのわからない話とか聞きたいなあ。わけわかんねえ、とか言いたくなる状況の面白い話」  なかなか意味不明な要求だ。よく知らない人とコメダに来て面白い話を要求される。既にこの状況がわけわからねえよと思いつつも、なにかあったかと思案する。 「そういえば、このあいだキャバクラに行ったんですけど……」  コメダの喧騒に負けないように少しトーンをあげて話し始めた。
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キャバ嬢と名刺の話で盛り上がったと思ったが……
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