更新日:2023年05月07日 13:58
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コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

なぜか「面白い話」を要求される

「何か面白い話をしてよ」  おっさんはいよいよ胸板あたりを拭きそうな気配を見せながらそう言った。いきなりハードルが高いことを言いやがる。 「え、なんでですか?」  僕が驚いた表情を見せると、おっさんも同じく驚いた表情を見せた。 「え、コメダって二人で行って楽しい話をする場所じゃないの?」  おっさんは全くもって信じて疑わないといった様子でそう言った。そう、これがおっさんだ。  コメダに来ている人が楽しい話をしていないわけではないが、別にそれはコメダに限った話ではない。楽しい話をする人はどこでもするし、逆にしない人はコメダでも陰鬱としている。  なのに、どこかから曲がって伝わった情報により、コメダでは楽しい話をするものと信じて疑わない。その情報の偏り方がおっさんがおっさんたる所以なのだ。 「いやあ、そういうもんだって鈴木さんが言ってたし」  鈴木さんとはパチンコ屋の常連仲間だ。ジャグラーが1日に100回大当たりすると爆発してその破片により島の人間が全員死ぬ、とガセ情報ばかり流している人だ。ジャグラーは1日100回大当たりしないし、爆発もしない。そうか、あの人ならこんな情報を流すのも納得だ。  まあ、せっかく来たのだし、別に楽しい話をすること自体はやぶさかでもない。 「じゃあ話しますよ。どんな話がいいですか?」  僕がそう言うと、おっさんは少し考える素振りを見せた。 「そうだなあ、わけのわからない話とか聞きたいなあ。わけわかんねえ、とか言いたくなる状況の面白い話」  なかなか意味不明な要求だ。よく知らない人とコメダに来て面白い話を要求される。既にこの状況がわけわからねえよと思いつつも、なにかあったかと思案する。 「そういえば、このあいだキャバクラに行ったんですけど……」  コメダの喧騒に負けないように少しトーンをあげて話し始めた。
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キャバ嬢と名刺の話で盛り上がったと思ったが……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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