ライフ

コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

キャバ嬢と名刺の話で盛り上がったと思ったが……

 新宿、歌舞伎町から少し外れた場所にあったキャバクラはすっかりクリスマスイルミネーションに彩られていた。僕の横についたのはセクシーな衣装に身を包んだ「サキ」という女の子だった。 「サキです、よろしくお願いします!」  彼女がちょこんと差し出した名刺に目が留まった。  ドレスアップした彼女がほほ笑む名刺だったのだけど、その紙質がかなりいいものだった。 「いい名刺だね、これ、いい紙使っているなあ」  あまりに名刺に食いつくものだから、名刺フェチだと思われたらしく、キャバ嬢はさらに良い名刺を出してきた。 「こういうキラキラ加工した名刺もあるんですう。こっちは大切なお客様用」  暗に、これを出さなかったお前は大切なお客様ではない、金なさそうだし、と言われている感じもするが、そう言いながら胸元からさらにゴージャスな名刺が出てきた。 「すげー、これもうヘッドじゃん。ヘッドロココじゃん。すげー」 「ヘッドロココ……?」  それでもう完全に火がついてしまい、名刺に使われているフォントの話、名刺のエッジの話をしていた。 「特にエッジは大切で、名刺をもらったらエッジの手触りを確認すればいい。次に紙質、そしてフォント、詐欺師とかが使う名刺はここが甘い。悪徳業者との戦いはそこから」  みたいな話を延々としていたら、最初は「えーそうなんですかー」とか話を聞いていたサキちゃんも次第に無視をするようになった。 「おかしくないですか! キャバクラで無視されるんですよ! お話をしに行ってるようなもんなのに! もう完全にわけわからない、ってやつですよ!」  少し熱くなってそう報告すると、おっさんはコメダのアイスコーヒーを飲み終えて口を開いた。 「いや、それはわけわからなくないだろ。キャバクラで延々と名刺の紙質とかの話をしたらそりゃ嫌われる」  けっこう冷静だし、ジャッジが厳しい。
次のページ 
一体何を話したらおっさんは満足するのか
1
2
3
4
5
Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事