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コメダ珈琲で、すべらない話をさせられすべり続けた話――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第72話>

一体何を話したらおっさんは満足するのか

 一体全体どんな話をしたら気に入ってもらえるのだろうか。というか、なんで僕はこのハゲたおっさんに気に入ってもらおうと頑張っているのだろうか。これもう本当にわけわからないな。 「そういえば、僕の電話番号が間違われていたことがありましてね……」  ゆっくりと話し始める。おっさんはまたアイスコーヒーを口に運んでいた。  僕の携帯はほとんど電話がかかってこないし、LINEとかを女の子に送っても既読無視が関の山なのだけど、一時期だけ、狂ったように電話がかかってきたことがあった。 「すいません、アヤネちゃん呼びたいんですけどいけますか?」  どうやら僕の電話番号が新規開店したデリヘルの番号とかなり似たものだったために、とにかく猛り狂ったデリヘル客から電話がかかってくるようになったのだ。  デリヘルの客ってなかなか横柄みたいで、電話がつながった瞬間に自分の欲望だけをぶつけてくる。そんなケースがかなり多い。 「スズちゃんておっぱいおおきい?」  挨拶も前置きもなしにこれだ。そんなもん知ったこっちゃない。  最初の頃は丁寧に対応して、間違えてますよ、みたいに諭していたのだけど、あまりに横柄な客が多いので面倒になった。さらに、間違えてかけてきた客から聞き出して、デリヘル店の方にも「間違えてすげーかかってくるから注意喚起してくれ」と要求したのだけど、取り合ってもらえなかったので、腹が立った。そして全てが面倒になっていた。 「スズちゃん、お目が高い! そりゃもう綺麗なおわん型のおっぱいでね、お客さんラッキーですよ。Jカップ!」  もう心の底から考え付く限りの適当さで対応していた。さすがに2時から予約で!とか核心に迫る電話は、あまりにかわいそうなので間違えてることを告げて店のほうに電話するように言っていたけど、基本的に問い合わせだけのものは適当に対応していた。 「かわいいですか?」「どんなタイプですか?」「何系ですか?」「サービスいいですか?」基本的にデリヘルのお客さんの問い合わせは細かい。よほど損をしたくないのか、かなり根掘り葉掘り質問してくる。そんなに気にしてないで呼んでみろよ、呼べばわかるさ、と言いたくなる気持ちをグッと堪えて、まじめに適当に返答する。  そして、そのなかでも群を抜いて訳の分からない質問がきた。ついにきてしまったのだ。 「オプションのおしっこ持ち帰りなんですけど、軽減税率は適用されますか?」  されねえよ、バカ。
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おっさんが求めていたものは結局わからなかった
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