デジタル

デジタル捜査のプロ、埼玉県警の敏腕刑事が刑事を辞めた理由

リテラシーがなければスマホは危険なツール

 デジタルとアナログを融合させる手法で実績を積んできた佐々木氏。捜査一課の敏腕刑事として、世間を震撼させた重大事件を多数担当してきたが、その心に色濃く残っている事件がある。’14年、川口市で当時17歳の少年が、母親から「何をしてもいいから金を借りてこい」と言われ、祖父母を殺害して現金とキャッシュカードを奪った事件だ。母親は少年を学校にも通わせず、再婚相手の元ホストは少年に身体的虐待を加えていた。 「最終的に殺人の意思決定をしたのは少年本人ですが、そうせざるを得ない環境に置いた親の責任は大きいと思います。目の前の問題解決のためにはいろんなアプローチがあると教えるのが親の役割ですが、母親はそれをずっと放棄していました」  メディアはこの母親と少年の特殊な関係にフォーカスしたが、佐々木氏の見方は違う。普通の環境で育った子どもたちも、一歩間違えれば同様の判断をしかねないというのだ。 「僕は講演で高校生にこう聞くんです。『近くにコンビニがあります。お金はないけれど、空腹を満たしたい。あなたなら、どうしますか? 何をやっても構いません』と。すると、『万引をする』と答える学生が5割。ツケを頼む、食べ物を買う代わりに仕事を手伝うなど、他にいくらでも手段はあるのに、何の躊躇もなく万引を選択してしまう。検索すれば即座に回答を提示してくれるスマホの普及によって、青少年の思考力や想像力が低下していることを実感しました」  佐々木氏はデジタル捜査を進めるなかで、SNSに依存した青少年が被害者として、時には加害者として犯罪に巻き込まれる現場をいくつも目撃してきた。LINEのメッセージを既読無視された側が、無視した側をリンチして殺した事件もあった。ささいなすれ違いが、殺人の理由になり得てしまう。こうした状況に危機感を覚えた佐々木氏は一念発起し、今から4年前に22年間の警察人生に別れを告げた。 「事件発生後の対症療法ではなく、リテラシー教育からアプローチすることで犯罪を未然に防ぐことはできないかと考えるようになりました。現在は全国の学校を飛び回り、子どもや保護者に向けてスマホやSNSの正しい使い方を啓蒙する活動を行っています。大人はスマホを与えるだけでなく、リスクを教える義務がある。それを疎かにすれば、子どもはいともたやすく犯罪に巻き込まれてしまいます」  スマホのある生活が当たり前となった今、我々大人は、よき手本となる使い方を果たしてできているだろうか。 ▼増加するインターネットを通じて未成年が巻き込まれる犯罪事件 ●座間 9遺体事件(未成年被害者は4人)……’17年10月31日に発覚した死体遺棄事件。座間市在住の男が、ツイッターを通じて自殺願望のある女性と交流して自宅アパートに連れ込み、性的暴行を加えた上でロープで絞殺・遺体を解体。アパートからは9体の遺体が見つかった ●大阪 小6女児誘拐事件(中3女子とは肉体関係あり)……栃木県小山市の職業不詳・伊藤仁士容疑者(35)が、ツイッターで知り合った大阪市の小6女児を誘拐・監禁し’19年11月23日逮捕。同じくツイッターで知り合った茨城県の中学3年生女子と同居し、肉体関係があったことも判明した ●SNS融資詐欺事件(容疑の19歳女性自身も詐欺被害に遭っていた)……SNS上で融資すると偽り、保証金と称して115人から計約200万円を騙し取ったとして、住所不定・無職の19歳女性が’19年12月17日に逮捕された。本人も同様の詐欺被害に遭い、騙し取られた5万円を取り戻そうと思ったと供述 【佐々木成三氏】 ’76年、岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班にて押収解析を担当。現在は「一般社団法人スクールポリス」の理事を務め、学生を犯罪リスクから守るための活動を行っている。初の著書『あなたのスマホがとにかく危ない‐元捜査一課が教えるSNS、デジタル犯罪から身を守る方法‐』(祥伝社/1650円)。実例を交え、SNSを安全に使う方法、ネット犯罪に巻き込まれないための対策等をわかりやすく解説 取材・文/松嶋千春・野中ツトム(清談社) 撮影/八杉和興(本誌)
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