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さいたま小四男児殺害事件が象徴する、働く母親の活躍と理想の子育ての距離/鈴木涼美

●さいたま小四男児殺害事件――進藤遼佑君(9歳)の遺体がさいたま市見沼区の集合住宅で発見。9月19日、義父である進藤悠介容疑者が死体遺棄の容疑で逮捕された
警察

※写真はイメージです

Le Garde du coeur

 子供がいる女性の自由がその事実によって侵害されることなく、希望の職場に復帰したり、新しい活動を始めたり、愛を感じなくなった相手と別れたり、新しいパートナーと恋をしたりできる世の中を良い世の中とするなら、その自由はどれだけのものを含むのか、と時々思う。  「破滅するのは個人の自由」とは当時60歳だったサガンの言葉だが、子を持つ母親にも破滅する自由はあるのだろうか。  さいたま市内で小学四年生だった男児が殺害されているのが見つかった事件で、逮捕された容疑者が母親の10歳年下の再婚相手だったこと、母親が教員、容疑者である義理の父親は無職だったこと、再婚した二人がネットで知り合ったらしいことなどに注目が集まっている。 「本当の父親じゃないのに」という子供らしい一言に逆上したという義理の父親の横暴さや幼稚さが責められるのは当然だが、特に子供を持つ親は、仕事や再婚を子育てより優先したかに見える母親の判断に疑問を持ち、その責任を追及する声も上がる。  一切の批判が無意味とは言えないが、母親と被害者である子供にのみ血縁があることも母側への非難を強めているようにも思えるし、母親が不在にしがちな家庭環境への無意識的な距離感が含まれているようにも見える。  社会として子供の安全を第一に考えるのは当然だが、その最終的な責任を常に血縁、ひいては妊娠出産や授乳を経験する母親に押し付けるのであれば、それは多くの現代人が考える男女がフェアに幸福追求をする社会とは異なるだろう。
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不完全な人間たちが子育てすることを前提とした支援
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’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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