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紗倉まな、AVデビューから8年…著書『春、死なん』に込めた意味

紗倉まな

紗倉まな

 複数の活動を掛け持ちする「パラレルキャリア」が注目されて久しいが、紗倉まなの肩書は実に多岐にわたる。AV女優、コメンテーター、アイドル、エッセイスト、そして作家だ。  これまでもエッセイ2冊、小説を2冊上梓し、なかには映画化された作品もある。そして新刊『春、死なん』(講談社)は、彼女の文芸誌デビューとなった記念すべき作品だ。 「この作品は文芸誌『群像』に掲載された『春、死なん』『ははばなれ』という2編の小説を収めたものです。文芸誌は高専時代に親友が勧めてくれたのがきっかけで『群像』や『文學界』『文藝春秋』を読んでいました。学校では土木や測量の勉強をしていたのですが、文学好きになったのはこの頃ですね」

漂白化する社会に葛藤しながら綴られた性と死に迫る衝撃作

 本書で描かれる主なテーマは「高齢者の性」と「母の性」。登場人物は妻を亡くした70歳の老人や、還暦を迎えた女性と、現在27歳の紗倉とは年齢も社会的属性もまったく違う存在だ。なぜ彼らの心の動きや葛藤を、ときにグロテスクなまでに生々しい筆致で描くことができるのか。 「創作にあたっては、自分と年齢や性別が近い存在よりも、社会的な属性は違っても、どこか共感できる立ち位置の登場人物を描くほうが書きやすかったんですよね。高齢者の性については、アダルトビデオのファン層から着想を得た部分も大きいですね」  アダルトビデオの購買層は年々、高齢化している。紗倉のDVD発売イベントには若者や女性も見られるが、主な客層は50代から80代の男性だ。 「コアなAVファンの中にはスマホもパソコンも使わず、いまも本屋にエロ本を買いにいって、作品の感想をはがきで送る……という人も少なくありません。また折に触れ、彼らのセックスレスや性の悩みも聞く機会がありました。  これだけデジタル化が進む社会の中で、高齢者がどういうふうに性欲を解消したり、処理しているのだろう……とかねてから考えていました」  そう語る紗倉も、自らを「アナログ派」と自認する。 「私はスマホ決済も苦手だし、キャッシュレス化の波に乗れていない。カードから個人情報が抜き取られて、自分の知らないところで悪用されて、法外な請求が来るんじゃないか……とヒヤヒヤしたり(笑)。  またこの小説にも出てくるように、私自身もいつか那須でスローライフをしたい……なんて夢もあります。少し前に、トヨタが閉鎖予定の東富士工場の跡地を未来都市にすると発表していましたが、生産性の高さばかりに重きが置かれる風潮って果たしてどこまで幸福なのか、ふと疑問に思ってしまうこともあるんです」  さらに本書では、コンビニのエロ本や喫煙所が次々に排除され、急激に漂白化される社会のありさまが年老いた主人公の視点を通して描かれている。 「もちろん分煙やエロ本のゾーニングはいいことですが、ときどき『その漂白の仕方でいいのかな』とモヤモヤすることがあるんです。私は子どもの頃には、タバコは大人の嗜みと思っていましたが、今の子どもたちは喫煙所の前を通るときには露骨に手で口を塞ぐと聞きました。  何かのきっかけで害悪だと見なされると、すぐにみんなが右へ倣えと排除する。その変わり身の早さや変化のスピードに、自分自身がついていけない部分もあるし、私と同じように思っている人もいるのではと感じるんです」  本書のタイトルでもある「春、死なん」は平安末期の歌人、西行が晩年に詠んだ和歌「願はくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月のころ」の一節。現代語訳にすると「満開の桜の木の下で死にたい」となる。もともとこの歌は、紗倉が小学校の授業で習い、暗記させられたものだったとか。 「実は2年前、すごく気落ちした時期に一人旅をしたことがあって。そのとき泊まった宿で和歌の催し物が行われていて、この西行の歌が流れてきたんです。小学生の頃はなにも考えず暗記していただけでしたが、『私も今、めちゃめちゃ死にたいと思っているし、西行の気持ち、わかるよ……』と一人で泣きながら共感していました。この歌の美しさをタイトルにうまく入れこめたので嬉しく思っています」
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生きることは死ぬこと
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春、死なん』紗倉まな(講談社刊、1540円)

文芸誌『群像』に掲載された「春、死なん」、「ははばなれ」の2編を収録。「老人の性」と「母の性」をテーマに、社会問題化する高齢者の性を現役AV女優が生々しく描く
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