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“うがい薬”祭り、報道番組ディレクターが振り返る舞台裏

 世間を賑わせた“うがい薬”騒動。大阪府の吉村洋文知事の発言から、全国のドラッグストアでうがい薬の品切れが相次いだ。SNSでは“祭り”のような状態となり、Twitter上には「#イソジン吉村」というハッシュタグまで見られる。  これはテレビの影響力の凄まじさを痛感させられる出来事だったとも言えよう。そんな“うがい薬”祭りの舞台裏。
マスコミ

※写真はイメージです(以下同)

 8月4日の正午過ぎ。東京都内のテレビ局に、在阪のネット局から連絡が入った。その内容を上司から聞いたという、現役の報道番組ディレクター・益子正治さん(仮名・30代)が振り返る……。

“うがい薬”祭り、報道番組の舞台裏

「なんでも大阪府知事が、コロナに有効な薬について記者会見を行うというんです。みんな色めき立って、情報収集が始まりました。もしかしたら事前に情報が漏れて、どこかの製薬会社の株が上がっていないか、海外製薬メーカーと付き合いのある商社の株はどうだ? そして、コロナに勝てる! という希望が見えたんです」(益子さん、以下同)  ところが、である。会見の直前になり、その「薬」がどうやら市販のうがい薬らしいという情報が入ってきたのである。益子さんが続ける。 「は? って感じで、拍子抜けですよ。会見を生中継しようと動いていたスタッフも、それならやる意味はねえな、と見送りに決まったんです。会見では予想通り、府知事が某メーカーのうがい薬を宣伝するような内容で、これは流石に生中継しなくてよかった、となったんですが……とあるワイドショーが会見を中継してしまったんです」  中継するには憚られる内容の会見だったものの、ネットの反応は早かった。会見でとんでもないことを言っている、本当なのか、買い占めや転売が始まる、エビデンスは大丈夫なのか……。世の中がこの会見に注目していることが、手に取るようにわかったのだ。 「うちでも急遽取り上げよう、となりまして。慌てて取材を開始しました。都内の薬局にADを向かわせ取材をしたり、街中の通行人に『会見は見ました? どう思います?』と聞いたり……」  ちょうどその頃、都内の薬局チェーン本部勤務・花本浩一さん(仮名・50代)の元には、上司から連絡が入った。 「店舗ごとのうがい薬の在庫を聞かれました。そんなのすぐにわかるわけないと返すと、すぐに買い占めの予防策をしろと怒鳴られて。ニュースを見ていなかったので、なんのことかわからず。各店舗にはその時間、買い占め客が訪れていたんです」(花本さん)  千葉県内の同じ薬局店チェーン勤務・横尾麻里さん(仮名・20代)は、実際に買い占め客と対峙した。 「来るなり『イソジンどこ?』と聞かれるお客さんが数人やってきました。実は、コロナの影響でイソジンはかなり品薄で……。店頭にあった数本は、最初のお客さんが全て買われていった。医療関係者かな? と思っていると、他にもイソジンを求めるお客さんが来て……」(横尾さん、以下同)  数分後に、店長からのお達しで「お一人様1個」のポップを貼ることになったが、時すでに遅し……。
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“うがい薬”祭りの結末は…
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