「アリス? 私、かわいい系できるかな?」(ユブネ)
――で、7月の配信レイブでニューアルバム『ALICE』の楽曲が披露されて以降、アイドル界隈だけでなく、いろんな人の口の端にMIGMA SHELTERがのぼるようになりました。
ユブネ:特に『ALICE』が配信リリースされてからエゴサしていると、これまでMIGMA SHELTERにあんまり興味はなかっただろうな、という感じの人たちの中でも私たちの順位が上がっている印象は受けました。ただ、直接みんなに会って声を聞けているわけではないから、実感はあまりないかもしれないです。
ミミミユ:でも「Rabiddo」っていう曲のMVが公開されたとき、知らない外国の人がYouTubeにコメントを付けてくれていたのは驚きました。
ミミミユ
――みなさんがネット中心の活動を余儀なくされていたように、リスナーもライブハウスやCDショップではなく、ネットで音楽に触れるようになっているからこそ、意外な出会いがあった、と。
ミミミユ:それがすごくうれしかったです。ただ、アルバムについては最初「『不思議の国のアリス』をイメージしたアルバムになります」って聞かされたとき、全然意味がわからなくて……。
――キャロルの原作小説やアニメ版、実写映画版のアリスの世界にあまりおなじみはなかった?
ミミミユ:それもなかったし、コンセプトアルバムというものを知らなかったので、なんじゃそれ? って。
――よもや10曲全部でアリスのことを歌うことになろうとは。
ミミミユ:全然思ってなかった……。
――ユブネさんはアルバムのコンセプトについて、どう思いました?
ユブネ:私の中の勝手なイメージなのかもしれないんですけど、アリスはちょっと不気味なんだけど、やっぱりかわいいもの。だからすごくアイドルっぽいなとは思っていたんですけど、MIGMA SHELTERってアイドルではあるんだけど、みんなの思うようなアイドルなのかと言われると……。
――いわゆる「アイドル」とはやっている音楽が全然違いますね。
ユブネ:サイケデリックトランスだし。だから「MIGMA SHELTERとアリス?」「サイケデリックトランスとアリス?」「私、かわいい系できるかな?」って感じで全然想像できなかったんですけど、デモが届くたび、振り入れがあるたび「あっ、面白れえ!」ってなって(笑)。
「It doesn’t matter」みたいな曲もあれば、「Egg Head」みたいな曲もあったから、今までの私たちにはできなかった新しいことに挑戦できたかなと思っています。
――ミミミユさんはさっき「デモがどれも最高だった」とおっしゃっていましたよね。
ミミミユ:それにコンセプトの話を聞いたあと原作の小説も読んでいたので、デモが届くたびに自分の中でだんだんアルバムへの理解が深まっていく感じがして楽しかったです。
――それは確かに楽しそうですね。1曲目「In Wonderland」の〈さし絵の無い本も たいくつな時間も 私いらないの〉という歌詞は、まさに原作冒頭。「さし絵も会話もないない本なんて、なんの役に立つのかしら?」と思っているアリスのことだし、「It doesn’t mat-ter」はアリスとチェシャ猫の禅問答みたいな会話中のフレーズだし。
ミミミユ:作詞・作曲のタニヤマさんがそういう歌詞の意味を丁寧に教えてくれたので、すごく歌いやすかったです。あと、今までのみーはただのミミミユでしかなかったのに、曲ごとにアリスのいろんなキャラを歌やダンスで表現できるのも新鮮でした。
――でも「Rabiddo」では懐中時計片手のウサギ、「QUEEN」では女王と、1人で複数のキャラクター像を歌うのって素人目には大変そうですけど……。
ミミミユ:確かに。レコーディングが楽しかったのはウソではないんですけど、曲に憑依しがちなタイプだから歌うたびにひどい頭痛に襲われてました。
――うわー……(笑)。ユブネさんは、その“誰かの物語”を歌うことについて思うところはありました?
ユブネ:私はアリスやクイーンみたいな女の子のことを歌うパートじゃなくて、基本的に人間以外。チェシャ猫とかハンプティ・ダンプティについて歌っているパートの歌割りをもらうことが多かったので、その実在しないキャラクター像を作るのが楽しかったです。
――一方、曲については?サイケデリックトランスに軸足を置きつつも、レゲエやジャズやマーチを下敷きにしてみたり、ピアノやストリングスやアコースティックギターといった生楽器をフィーチャーしてみたりと、だいぶん振り幅の大きなアルバムになりましたよね。
ミミミユ:デビューしたころの曲と比べると、去年の「TOKYO SQUARE」なんかもあのころの曲とはだいぶん違っているので、そんなに違和感はなかったです。
ユブネ:私が入って以降のMIGMA SHELTERの曲って、それ以前の曲とはけっこう違うテイストになっていますから。「今のメンバーでMIGMA SHELTERのアルバムを作るとなると、こういう感じになるよね」と思っています。
ミミミユ:それに「the Answer」(2019年3月発表)もおしゃれな曲だと思うんですけど、あれは実は旧体制のころから歌っている曲なので。新体制になって劇的に曲の雰囲気が変わったのか? というとそうでもなくて。今回、いきなりイメージが変わった感じはしないですね。
――『ALICE』は3年間のMIGMA SHELTER楽曲の集大成であり、その最新型という感じ?
ミミミユ:そうですね。でも今回は歌詞がちゃんと日本語っぽいのに驚きました。今まではいつもよくわからないことを歌っていた気がするんですけど……。
――聴き手がいかようにでも解釈できる抽象的な歌詞が多かったですよね。
ミミミユ:でも『ALICE』はちゃんと日本語の意味がわかる曲が多いな、という気がします。
――『不思議の国のアリス』のお話をベースにしているだけあって、どの曲の歌詞もちゃんと物語的になっている。
ミミミユ:そこが新しいな、とは思ってます。
――その「MIGMA SHELTER、日本語の意味がわかる曲を歌う」という挑戦もした野心作をリリースした今、やってみたいことってあります?
ユブネ:まだお客さんを入れたレイブができるかどうかはわからないので、配信に力を入れたいな、と思っています。
――具体的なアイデアってあります?
ユブネ:いつも配信レイブやオンライン特典会をやっていて思うことなんですけど、このままずっとカメラを回していたらどうなるのかな? って。別に配信レイブの前後の様子でなくてもいいんですけど、カメラがずっとメンバーを追うみたいな企画をやってみたいです。「24時間MIGMA SHELTER」!
ミミミユ:それ、やりたい!
――お話を聞くに面倒くさそうだけどなあ……。ミミミユさんはこの秋以降にやりたいことってあります?
ミミミユ:これはこの秋以降っていうか、ずっと言っていることだし、みーがやることではないんですけど、MIGMA SHELTERって加入したらバンジージャンプをするルールになっていたはずで……。
――3年前、ミミミユさんは旧メンバーと一緒に紫色のジャージ姿で飛んでいましたよね。
ミミミユ:なのにユブネたちが飛んでないのは不公平なのではないか? と。なんでお前らは飛んでいないんだ? と。
ユブネ:えーっ……。だって新メンバーとして契約するとき、バンジーのことなんか言われなかったよ。
ミミミユ:みーの契約書にも書いてなかったけど飛んだ。
ユブネ:みんなでメンバーカラーのジャージを着てボーリング大会とかじゃダメ?
――それ、ただのユブネさんのやりたいことですよね?(笑)
ユブネ:じゃあみーちゃんも一緒に飛ぼうよ。
ミミミユ:ヤだよ! みーはもういいですよね?
――だと思います(笑)。
ユブネ:でも私、バンジーなんてやったら心臓がはかはか(東北の方言で「ドキドキ」)して死んじゃうと思うんだけど……。
ミミミユ:でも絶対に飛ばせます!
取材・文/成松哲
##(プロフィール)
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MIGMA SHELTER(みぐま・しぇるたー)
ミミミユ、ブラジル、ユブネ、タマネ、レーレ、ナーナナラからなるアイドルグループ。2017年4月、ミミミユら6人で活動を開始し、本格的なサイケデリックトランスを歌い踊るアイドルとして大きな注目を集める。同年7月に初のシングル「Svaha Eraser」を発表し、以来コンスタントに楽曲を発表し、ハイペースで“レイブ”を展開するも、2018年春から夏にかけてミミミユを除く全メンバーが卒業、他グループへの移籍をし、8月よりミミミユ、ブラジルの2人体制で活動を展開する。2019年2~3月にはユブネ、タマネ、レーレらが加入し、9月にはナーナナラも合流。その後、メンバーの卒業を経て、2020年6月より現体制に。そして2020年8月26日に初めてのフルアルバム『ALICE』を発表した。