恋愛・結婚

スナックの美魔女に恋をした。愛のヒットパレードは彼女に刺さるのか?

そして彼女は神になった

 始発が走り始める頃になると、上半身裸のヨッシーはカウンター席の後ろをふらつきながらうろうろしていた。入り口から奥のトイレまで行ったり来たり、途中でソファに座り込んで立ち上がってはまた行ったり来たり。限界を突破して目はほとんど開いておらず、眠気と酔いとで朦朧としているようだった。  そんな様子を尻目にユイさんは「そろそろ帰りまーす」と身支度を始める。店内の人はもうまばらになっていた。 「ほら、ちゃんとしなさいよ」  そう言ってヨッシーの背をぽん、と叩いてユイさんは店をあとにした。その背を見送って、残った数名とわたしたちは深いため息をついた。 「ヨッシー、今日は……がんばったな」 「うん。頑張った」 「ていうか飲み過ぎ」  床にうずくまるヨッシーにはもはや聞こえていない。もう半分寝ているかもしれない。かと、思うと、ヨッシーは膝を床に付けたまま、突然ぐぅっと上半身を起こした。 「お。起きた」 「復活した? 大丈夫?」  声を掛けるが、返答はない。半開きの目のヨッシーは両手をバンザイするかたちで目一杯上にのばすと、そのままゆっくりと上半身を倒し、額を床に擦り付けた。ユイさんが去っていった出口のほうへ向かって。その姿はまるでメッカに向かって礼拝するイスラム教徒のようだった。 「宗教? 宗教なのか?」 「ユイさんは神なのか??」 「正気になれヨッシー」  さすがのわたしたちも爆笑して、かなりのスローペースで何度も礼拝(?)を繰り返すヨッシーを眺めながら最後のお疲れビールを飲んだ。  ヨッシーの厳かな礼拝は、片付けも終えて痺れを切らしたわたしとマスターが叩き起こすまで続いた。  後日聞くところによると、ヨッシーにはこの時の記憶はさっぱりないらしい。時に、恋愛は人を神にするらしい。無意識下で相手を拝んでしまうほどの彼の恋愛を、わたしたちはいつもこっそり応援しつつ見守っている。<イラスト/粒アンコ> (おおたにゆきな)福島県出身。第三回『幽』怪談実話コンテストにて優秀賞入選。実話怪談を中心にライターとして活動。お酒と夜の街を愛するスナック勤務。時々怖い話を語ったりもする。ツイッターアカウントは @yukina_otani
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