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<純烈物語>クドカン的音楽手法に音で返す。リーダー酒井はなぜドラマ『俺の家の話』に突き動かされたのか<第88回>

チェックに出すと即レスしてくれたTBSスタッフの熱量

 振付の収録を終えてようやくメンバーは帰路につけたが、そこから遠山正樹監督は夜通しで編集作業へ。酒井も朝起きるやチェックし2、3箇所修正しただけでOKを出す。スタッフも確認後、TBSサイドへ送ると「即レスだった」。  テレビが絡む案件だと、結論を出すのに時間がかかり「2、3日お待ちください」となっても不思議ではない。それが「ここまでやってくれたんですか!? 嬉しいです!」と、すぐにGOを出してくれた。  純烈の姿勢に対し、TBSも同等の熱量で返した。だから「何かが宿った映像になったんだと思うし、そうじゃないと人は見ない」と酒井は手応えを口にする。  それにしても――『俺の家の話』出演者とスタッフに喜んでもらえたらとの意図で形にはしたが、その思いの根っこには何があったのか。突き動かされるものがなければ、ここまでやろうという気にはなれなかったはずだ。  酒井はネット配信ドラマ『純烈ものがたり』や映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』の撮影で、コロナ禍に見舞われながらも製作し続けるスタッフや演者の大変さを見てきた。『俺の家の話』の現場も容易に想像できる。 「状況として、ドラマを作ることにものすごくリスクがある。PCR検査をやったり、ワンカット・ワンカットのテストが終わったら、フェイスシールドを外して本番をやって、またシールドつけたり……ということが、毎日続いている。そのたびに、ヘアメイクが崩れるからメイクさんも大変。面倒臭いことを延々やっているんです。

コロナ禍でドラマを作る大変さ、演者の尊さに感謝を込めて

 ドラマを見ていれば、西田(敏行)さんが体を張ってやっていることは伝わってくるし、演技の一挙手一投足がとても尊くて……『秘すれば花』を見て、純烈すごいっていってくれるけど、あのドラマに出ている皆さんの方がもっとすごい。それほどの現場に呼ばれたいと思うけど、僕らじゃついていけないと思う。  純烈はこの番組のファンであり、こういう状況下で同じエンターテインメントに携わっている仲間として、最後まで頑張ってくださいというその一点でやっただけだから。潤 沢をカヴァーすることで自分に対する『頑張ろう』になるし、やっぱり『俺の家の話』に対するありがとうの思いはこめられていますよね」  もっと計算高く、それこそ人気テレビドラマに便乗するつもりでやっていたらその後のリアクションも頭に描いただろうが、酒井はまるで無自覚だった。力技で作ったあとは、頭の中が“御園座モード”に切り替わっていた。  自分が好きで見ていたドラマに、自分たちっぽいのが出てきてナニコレ?となっただけでなく、今度はその“お返し”が絶賛されている。ひとつ言えるのは、宮藤官九郎作品だから音楽でつながったという点。  バンド「グループ魂」のメンバーでもあるクドカンの映像作品は、音楽をフィーチャリングしたものが多い。映画『少年メリケンサック』『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』のようにド直球のものだけでなく『舞妓Haaaan!!!』では「そこ、そんなに尺必要?」と誰もが突っ込みたくなる場面で、歌やダンスの脳内描写が続く。 『俺の家の話』におけるムード歌謡グループ・潤 沢の登場シーンも、そんなクドカンならではの“手癖”が楽しめる。音楽に対し、同じ音楽をやっていたから返せるものが生み出せた。
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「どうしてクドカンさんが純烈を持ってきたのかは、聞いていない」
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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