ライフ

ダイソーとローソンストア100の商品で作るメイドカフェ風オムライスの切なさ

気を持たせるような見送りの言葉

 それから少しして会計を済ませて店を出た。そしてエレベーターに乗り込んだところで僕を呼び止める声がした。 「待ってください!」  あみだった。彼女は上目遣いで少しためらいがちに言葉を続けた。 「あの……、今日はお話しできてすごく楽しかった。だから……また会えたら……」 「う、うん……」  そこでドアが閉まった。え、もしかして彼女は……。下降していくエレベーターの中で僕は年甲斐もなく胸をドキドキとさせていた。が、その一方で、こんなのに騙されてたまるか……という思いも湧いてくる。  お店の女の子というものは客からお金を搾り取るためならありとあらゆる手段を使ってくる。それはおそらくメイドだって同じはずである。もしかしたら接客マニュアルに書いてあるのかもしれない。客を見送るときは上目遣いで気を持たせるような言葉を掛けましょう、と。しかし、メイドカフェの基本的なルールもわかっていなかった彼女がそんな高度なテクニックを使ってくるだろうか……。  結局、その翌週、僕はその店のホームページであみが出勤しているのを確認してから再訪していた。彼女は僕を見ると、 「嬉しい! また来てくれたんですね!」  そう言って顔をパッと輝かせるのだった。

ブサイクなケチャップの絵

 チン。  レンジが鳴った。ドアを開け、チキンライスの入った容器を下の容器から外す。そこから現れた卵は見た目はあまりきれいではないものの、それなりにオムライスの生地のようには仕上がっていた。  チキンライスを皿に盛り付け、その上に卵生地を被せる。そしてその周囲にデミグラスカレーをかけたらデミグラスオムライスの完成である。が、これをメイドカフェ風にするためにはケチャップでお絵描きもしなくてはならない。
ケチャップ

セルフサービスでケチャップでお絵描き

 ケチャップのふたを開いてそのノズルの先を卵生地に向けた。猫の顔を描こうと思ったのだが、これが意外と難しく、なかなか思いどおりの線を引くことができない。あみがオムライスにお絵描きしてくれたときのことを思い出した。 「あーん、もう、うまく描けないよ」  彼女はそんなことを言いながらプルプルと震えるケチャップの線で猫やうさぎを描いてくれたものだった。が、そんな日々もそう長くは続かなかった。その店は1回で最低でも3000円以上はした。収入の少ない僕にとってそれは決して安い金額ではなく、次第に店から足が遠のくようになっていった。そしてそうこうしているうちにその店のホームページから彼女の名前は消えていた……。
メイドカフェ風オムライス

メイドカフェ風オムライスの完成だ

 僕がケチャップで描きあげた猫の絵は、かつてあみが描いてくれたものと同様、ひどくブサイクだった。が、食べてみると、味は決して悪くない。ケチャップの酸味で引き立てられたチキンライスの仄かな甘味をじっくりと味わってからゴクリと飲み込んだ。
試食

見た目は悪いが、味は悪くなかった

<文/小林ていじ>
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeチャンネル「ていじの世界散歩」。100均グッズ研究家。
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