“奇跡の生還”にも意味なんて感じない
――神がかっているといえば、25歳のとき、マンション9階からの転落事故でも命を落としませんでした。生かされている人生に、意味を見いだしたりはするものでしょうか?
窪塚:そうやって言ってもらうことは多いです。けど、落ちちゃったあとがすごい地味だったりするんで。たとえば、マンションから落ちたことで覚醒して空が飛べるようになったなら、人生の意味を感じやすいじゃないですか。そうじゃなくて、めっちゃ地味なんですよ、人間が回復するまでのリハビリって。
――リアルな言葉です。そもそも体の痛みがあるわけですもんね?
窪塚:痛いっすね。痛すぎて痛くないぐらい痛い(笑)。だから、もし意味を持たせるとしたなら、そのあとの自分の生き方だったり、そういうことでしかないと思う。
――今振り返ってその頃一番考えていたことはなんですか?
窪塚:背負っちゃってるなぁって。「え? 俺、飛んじゃったの?」というぐらい自覚がなくて、寝て起きたらケガをしてた、みたいな感じだったんですよ。ドラッグをやっていたとかも本当になかったので、本人的には「治すしかない」ってあっけらからんとしていて。でも社会的には“転落”とか“ぶっ飛んじゃったヤツ”というイメージがついちゃって、それを背負わされて。だから、その頃にレゲエミュージックがあってよかったなぁと心底思いましたね。
――卍LINEとしての活動ですね。レゲエへの感謝や敬意は各所で語られている一方で、テレビの仕事には否定的な思いが強かったのですか?
窪塚:20代前半の頃、メディアにむちゃくちゃにされてたんで。毎日公開レイプされてたみたいな感じでしたから。たとえば、テレビのインタビューを受けてしゃべると前後の脈略なくパートで抜かれて、しかも組み替えられて、よくわかんない音楽をのっけられて放送されちゃうことが頻繁にあったんですよ。テレビのなかの世界全体に不信感があったから、マンションから落ちたあと、陳腐な言い方ですけど『月9』のオファーをもらったりもしたんですけど、絶対にやらないと。だったら、コンビニでバイトしたほうがいいやって。
――ナイーブだった青年・窪塚洋介にとっては、傷つく体験だったんですね?
窪塚:当時は。でも、あんまり悲観的な出来事だとは思ってないんです。そういう出来事がマンションから落ちたことのトリガーでもまったくないので。あの頃は、あまりにもむちゃくちゃにされすぎて途中でアンテナが折れて、鈍感になれたんですよ。周りを気にしてばっかりいたら自分の道を歩けない、鈍感でいいやって。だから、メディアにボコボコにされたおかげで逆に強くなれたと思うんですよね。
――5回死にそうになったとか?
窪塚:頭ばっか打つんですよ。沖永良部島でそこそこの高さの堤防からぴょんって跳んで降りたら、下が全部苔で。全部が苔すぎてその色のコンクリートだと思ったんですよ。で、ツルーンって。脳天からバーンって落ちたらピリーッてなって。一緒にいた連れは爆笑してたらしいんですけど、こっちは走馬灯がバーッて浮かんできて。卍LINEのライブでも超泥酔してかなり高いステージから落ちて、頭打ってすげぇ血が出ちゃったり。
――そこまでお聞きすると、オーディションで勝ち取ったマーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』出演は、窪塚さんの人生に“意味を持たせた”大きな出来事だったのではと想像しました。
窪塚:そうなんです。報われたというか。大好きな監督だったので、いまだにドッキリだったのかなと思うし。撮影で半年間台湾にいたんですけど、幸せな時間でした。前の妻と今の妻のことを毎日祈っていたのがこの映画の撮影の頃で。ただ、『沈黙-サイレンス-』の経験が幸せすぎて、正直、やめてもいいかなって思ったんです。
――役者の仕事をですか?
窪塚:はい。一回、ゴールみたいな。もちろん、通過点なんですけど、今もハングリーさみたいなものは失っているのかもしれない。この間も海外の映画のオーディションに来ないかって誘われたんですよ。話を聞くと、行って2週間隔離されて1年間拘束される。ホテルと現場の往復はOK。でも、オフの日もホテルから出られない。1年間もですよ!? で、オーディションに来いって。「行かねぇよ!」って。それを映画監督の堤幸彦さんに話したら「行けよ!」って。いや、別に決まったわけじゃなくてオーディションだからと言い返したんですけど「俺なら絶対行くよ!」と。
――海外作品といえば、『GIRI/HAJI』というBBC制作のドラマへの出演も話題になりました。
窪塚:ありがとうございます。
――同作も『沈黙-サイレンス-』も、役柄との相乗効果もあって、マンションから落ちた時の額の傷が印象的でした。でも、本人としては傷を隠したい時期もあったのでしょうか?
窪塚:逆に聞かれるんですよ。雑誌の撮影などで「傷を修正しますか?」って。その場合、「ありがとうございます。でも、僕は気にしていないから、もしそちらが気になるようだったら修正してください」と答えますね。自分から「修正してくれ」とは絶対に言わないです。役者としても、ハンデといえばハンデだけど、味といえば味だし。役柄によってはマイナスかもしれないけど、もしそれで演じきれなかったのなら、俺がそれまでの男だなって話で。
――強いですね?
窪塚:いやぁ、どうすっかね。