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おっさんが同じ話を何度もする呪い。青春時代の記憶は都合よく改ざんされて…

当時の女子中学生の間で大流行した「プロフィール帳」

2 もうかなり昔の話だ。本田さんが通っていた中学校で奇妙なものが流行しだした。卒業を間近に控え、女子たちが慌ただしく何かを交換している。それとなく見てみると、淡いピンクに彩られた小さな紙があった。それが「プロフィール帳」だった。  それは一つのバインダー状の冊子になっていて、名前だとか住所だとか血液型、生年月日、メッセージなどを記入するようになっていた。早い話、プロフィール帳の名称通り、プロフィールを記入するようになっているのだ。 「ど真ん中にどでかいハートが書いてあった」  本田さんはそう主張するが、この部分のギミックは話を聞くたびに微妙に変化している。星型だったり、チューリップ型だったり、お姫様だったり、その日の気分で変わるようだ。だいたい調子がいいときはハートになるようだ。つまり、今日は調子がいい。  卒業を間近に控え、離れ離れになる友達にこのプロフィール帳の1ページを渡し、記入してもらうわけだ。そして最終的には友人のプロフィールがぎっしり詰まった1冊のプロフィール帳が完成するわけだ。

ついに最後の大物女子がプロフィール帳を導入した

 はじめは女子の間で流行していたが、次第にその数を競うようになってきた。つまりたくさん集めるほどステージが高いし、たくさん頼まれることもステータスとなっていった。そして女子だけでは収まらず、男子にまで侵食していったのだ。  最初は、女子に人気のスポーツ万能男子や、クラスの中心的存在男子など、今でいうところの陽キャ的な男子にのみ、そのプロフィール帳の記入依頼があったが、次第にその周囲の男子にまで侵食していった。ピンク色でかわいい絵柄のページが多く、男子たちは「こんなもの書けねえよ」みたいに照れていたが、まんざらでもない感じだった。  本田さんに依頼は来なかった。意味不明に放課後の教室や、夕暮れの下駄箱で佇んでみたりもしたが、どの女子からも記入依頼はなかった。この辺りは、なんど聞いても一貫して「放課後の教室」「夕暮れの下駄箱」で変化しないので、本田さんの中で譲れない何かがあるのだと思う。  そんな中、本田さんが好きだった麻美ちゃんという女の子がついにプロフィール帳に手を出した、という情報を入手した。麻美ちゃんは厳しい家庭に育っていたのでなかなかプロフィール帳を購入してもらえなかったが、ここにきてついに購入したようだった。  クラス内でも比較的に人気のあった大物、麻美ちゃんの参戦に男子はもちろん色めき立ち、女子たちも一気にその競争心に火をつけた。結果、かなり激しくプロフィール帳の依頼が飛び交うようになり、男子まで依頼をする側で参戦しだす始末だった。憧れの麻美ちゃんに依頼されないならこちらから依頼すればいいのでは? という合理的考えだったようだ。
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依然として本田さんに女子からの依頼はなかった
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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