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おっさんが同じ話を何度もする呪い。青春時代の記憶は都合よく改ざんされて…

 

依然として本田さんに女子からの依頼はなかった

 結果、クラス内で誰からも依頼されていないのは、本田さんともう一人、服部君という男子だけになったそうだ。  服部君は、小学校の時にクラス中の彫刻刀を盗んだというよく分からない逸話をもった男で、その動機も「100本並んだ角刀の彫刻刀が見たかった」というよくわからないもので、クラスには38人しかいなかったので38本しか角刀は揃わなかった。まあ、女子からも男子からも嫌われていた。 「その服部と俺だけなんだぜ、プロフィール帳を頼まれないの、おかしいだろ!」  いつもここで本田さんの怒りはマックスに達する。そしてちょっと涙目になる。 「そうですよね、本田さんは彫刻刀を盗んでいないのに」  僕もよく分からない言葉で宥める。

そんな本田さんに確変が訪れた

 そんな本田さんにも大チャンスが到来する。  ある日の放課後のことだ。また意味もなく教室で黄昏れていた。もはやノーチャンスであることは心のどこかでわかっていたのに、それでも残らざるを得なかった。教室には本田さんと服部が残っていた。「はは、プロフィール帳を依頼されないヤツだけが残っているぜ」と心の中で自虐的に笑ったという。その時だった。  ドタドタと何者かが教室に飛び込んできた。それが麻美ちゃんだった。しかも手にはまだ記入されていないプロフィール帳の1ページを持っている。 「ははーん、最後の1ページだな」  本田さんのリサーチによると麻美ちゃんは人気があるので、プロフィール帳のほとんどのページを使い果たしていた。そして、交友関係のあった人にはもう記入してもらっている状態だった。ただ、この状況から察するに、ラスト1ページだったのだろう。これを記入してもらえればコンプリートする。麻美ちゃんは焦った。教室には自分と服部だけ、本田さんはもう大チャンスだと確信した。 「麻美ちゃんはなんとしてもコンプリートしたい。教室には俺と彫刻刀泥棒服部だけ。誰だって俺に頼むだろ?」 「そうですね、本田さんは彫刻刀盗んでいませんし」  僕は適当に返事をする。
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なんと麻美ちゃんが取った行動は……
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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