更新日:2021年09月23日 16:36
エンタメ

電車の中で女子高生と二人っきり…おっさんが取るべき行動は

「この子、もしかして寝過ごしている?」

おっさん3「もしかしてこの子、泉佐野で乗り換えて和歌山方面に行くんじゃないの?」  そう思ったのには事情がある。それもこれも泉佐野駅という特殊な状況が原因だ。この駅は関空方面に行く路線と和歌山方面に向かう路線との分岐にあたる。そしてこの電車は空港方面へと行く。  乗り換えなかった場合、泉佐野より先は「りんくうタウン駅」と終点の「関西国際空港駅」の二つの駅しかないのだ。「りんくうタウン」はそうでもないが 「関西国際空港駅」は海の上に浮かぶほぼ空港しかない島で、他の施設や民家があるわけではない。  制服姿の女子高生が関空に用件があるとは思えないのだ。これから飛行機に乗ってどこかに行くとも思えないし、そもそも、関空はいま、ほとんど飛行機が飛んでいない状態だ。往路でも降り立ったけど、大部分の飛行機が欠航で、飲食店や売店もほとんど休業状態。人も歩いておらず、人類滅亡後の都市みたいになっている。そんな場所に制服姿の女子高生が行くとは思えない。 「りんくうタウン駅」周辺に家がある、その可能性もあるけど、あのあたりそこまで民家があるような感じでもない。つまり、ここから先、空港方面に制服姿の女子高生が行く理由がない気がするのだ。  電車が減速を始める。いよいよ「泉佐野駅」に到着するらしい。それでも女子高生は微動だにしない。ガッツリと寝ている。君はここで乗り換えて和歌山方面に行かなくていいのか、ここで起きて乗り換えなくていいのか、そう強く思ったのだ。

ただでさえコロナ禍の中、若者に絶望を与えてはいけない。おっさんはそう思った

 もちろん、そんなもの寝過ごしたとしても個人の責任なので、僕自身が心配したり気を揉んだりすることはないのだけど、なんというか、降りるべき駅を寝過ごしてしまった時の絶望感、正規のルートに戻るときの徒労感、そういった様々な感情を思い出して胸がギュッと締め付けられたのだ。  電車に乗り、降りるべき駅を寝過ごす、その絶望は計り知れない。僕は以前に、品川駅から新横浜駅まで新幹線で移動しようとしてのぞみの自由席に乗り、ストロングゼロをかっくらって眠ったことがあった。品川から新横浜まで数分の乗車時間だ。目が覚めると広島駅にいた。なにをいっているんだか分からないかもしれないが、新横浜駅で降りるつもりで、広島県、広島市、広島駅にいた。  一瞬、何が起きたのか分からなかった。神奈川に広島って場所あったっけ? と思ったほどだったが、すぐにホームの景色が広島県の広島駅のものだとわかり、絶望した。  目が覚めて関西国際空港に到着したことを知り、絶望する女子高生。  想像できるその姿と、かつての自分の姿が重なった。彼女にあんな絶望を与えてもいいものだろうか。いいや、よくない。  思えば、いま世界が、日本が置かれている状況は決して意図したものではないが、彼女たち若い世代から色々なものを奪っている。本来なら楽しいイベントも、大好きなイベントも、みんなと苦労を分かち合うイベントも経験する権利があるのだ。  それに付随する様々な経験を「青春」とひとくくりにするのはあまりに単純かもしれないが、今のこの世界は彼女たちから「青春」を奪っている。青春を楽しむことも青春を悲しむことも、青春に思い悩むことも、彼女たちは奪われている。もしかしたら、もう既に彼女たちは心のどこかで小さく絶望しているかもしれない。  そのうえで、目覚めたら関西国際空港なんていう絶望を与えていいはずがない。そう、寝過ごしはさせない。彼女はこの泉佐野で乗り換える。起こさなくてはならないのだ。  そうなると、問題になるのが、このおっさんと女子高生という組み合わせだ。眠っているのが完全無欠のおっさんだとしたらどうだろう。おっさんは眠っているが、どう考えてもこの駅で乗り換えなければならない。こちらはそれをわかっている。そういう状況だ。  その場合は、おっさんの肩をポンポンと叩き「おっちゃん、乗り換えやろ、しっかりしてや」と起こせばいい。ただ、女子高生を相手にそれをした場合、たぶん通報される。おっさんは女子高生と直接的に関わってはいけない。それほどに業が深い存在なのだ。
次のページ
20メートル離れた女子高生を起こすためには……
1
2
3
4
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
おすすめ記事