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高級風俗へ向かう車中、隣には招かざる客が…「この男、化け物ですよ」

カンのいい松川の猛追に徳重さんは……

 徳重さんは一瞬、躊躇した。まさか伝説の名店に行くとも言えず、噓を言わなければならなかったからだ。 「いや、今日はどこにもいかないよ」  そんなやり取りをし、なんとか切り抜けた。  身支度を整え、新幹線に乗るべく駅へと向かった。地元の駅から快速列車に揺られ乗換駅に到着する。新幹線自由席の切符を購入し、適当な車両に乗り込む。しばらく待つと、隣の座席に男が座った。  新幹線の車内は空いていた。それなのに隣に座ってくる奴がいる、妙だなと思ったそうだ。不審に思い、隣の男の顔を確認する。  百目の松だった。 「なんかシゲさん(徳重さん)の様子がおかしかったからさ、こりゃ一人で風俗に行く気だなって思ったからさ、駅で待っていたら案の定よ」  どうやら、あのチュッパチャップス内でのやり取りで徳重さんが嘘をついていると見抜き、最寄り駅で待機、そのままずっと尾行してきたようだ。ストーカーか。 「天」という麻雀漫画に「七対子の室田」という男が登場する。この室田という男は洞察力がずば抜けており、捨て牌を一瞬、目で追った際の動揺を一瞬で見抜き「グフフ、あんさん、この牌を確認して動揺したでっしゃろ、これで鳴き気配ということは浮く牌はこれや」と不要牌をピンポイントで狙って七対子を単騎待ちで受ける技を持っている。その常軌を逸した洞察力に「この男、化け物ですよ」と、ひろゆきが驚愕するシーンがある。
天 福本伸行

七対子の室田が登場する『天』第2巻(福本伸行 竹書房)

 徳重さんはまさにそのトーンで松川さんに「この男、化け物ですよ」と驚愕したという。

化け物の勢いに絆される

「なあ、いい店に行くんだろ、一緒に行こうぜ」  松川さんはグフフと笑いながらそう言った。普通ならよっしゃ、楽しもうぜ、終わったら居酒屋で報告会な! となるところだが、今日だけは事情が違う。なにせこれから行く店は異常に格式高い店だ。  徳重さんは悩んだ。とにかく悩んだ。本来なら、松川さんと一緒に楽しみたい。あの名店の格式を、極上のサービスを、「すごかったな!」と分かち合いたい。けれども、そういうわけにはいかないのだ。 「今日、行く店はちょっと格式が高くてさ、ダメなんだよ、急に予約は増やせない」 「んなことねえだろ、指名とかしなきゃいける。待つことになっても構わんよ」  やはり松川さんはその格式の高さをあまり理解していない。その辺の店に行くのとはおおきく事情が異なるのだ。 「それにその恰好は絶対に無理だ」  さらには、その店はちょっとしたドレスコードみたいなものを設定していた。これは予約時にかなり厳しく言われていたらしい。さすがに完璧なるスーツが必要なレベルではないが、場外馬券場に行くレベルのカジュアルファッションに身を包む松川さんは完全にドレスコードの外だ。 「それに、今日は審査されるんだ。審査をパスして晴れて会員になればみんなを推薦することだってできる。今日は大切な日なんだ」  様々な事情を説明するが、やはり松川さんは理解しない。 「そんな意地悪いわずにさあ、一緒に行こうよ。尾行したことは謝るからさ」  少ししょんぼりする松川さんの顔を見ていたら、やはり一緒に楽しみたい気持ちが湧いてきたようだった。徳重さんは考えた。なんとか予約にねじ込めないか、策はないか。とにかく考えた。
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もうわけがわからなくなった徳重さんの使った方程式
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