更新日:2021年11月29日 07:26
エンタメ

高級風俗へ向かう車中、隣には招かざる客が…「この男、化け物ですよ」

もうわけがわからなくなった徳重さんの使った方程式

 そこに店からの予約確認の電話が入った。デッキに出て通話する。 「予約確認の電話です。本日はご予定に変更はないでしょうか」  さすが格式高い名店だ。確認電話も丁寧で物静かだ。そこでダメもとで松川さんをねじ込んでみることにした。 「あの、その、無理だとは思うんですけど、その、一人追加とか、その……」 「ちょっと難しいですね」  やはりいい反応は得られない。そりゃそうだ。けれども徳重さんももう訳のわからないことになっていて、訳のわからないねじ込み方をしはじめた。 「例えばなんですけど、僕が分裂したとしたら、僕が予約しているわけですから分裂した僕の分も予約したことになりますよね。つまり分裂した僕の分、もう1枠いけないかと」  なに言ってんだ、この人。 「はあ、分裂ですか。ふむ、分裂。はてさて」  みたいに妙に格式高くバカにされたような感じになったらしい。  このまま松川さんを連れて行った場合、もちろん、徳重さんも入店できず、そうなると正会員になるための審査にも落ちるわけで、他の風俗仲間の入会まで危なくなってしまう。だからといって新幹線代まで払ってついてきた松川さんを置き去りにして自分だけ名店に入店するのも問題だ。全員が助かる方法はない。完全に“冷たい方程式”状態になってしまったのだった。

どんな方程式でも正解はわからない

「結局どうしたんですか?」  徳重さんに質問する。はたして、この極限状態でどんな決断をしたのか。 「結局、名店にはいかなかった。直前のキャンセルでもう永久に会員資格は得られなくなってしまった」  徳重さんは松川さんを選んだ。会員資格を得て、全員で名店を楽しむことより、松川さんを選んだのだった。 「俺が分裂って言った時、めちゃくちゃ馬鹿にされた感じだったんだよ。なんかそのお高い感じが嫌だった」  徳重さんはそう言った。まあ、僕でも「分裂」とか言われたら馬鹿にすると思う。 「仕方ねえから適当な駅で降りて風俗街を調べてよ、松川と二人でイメクラに行ったわ」  何が正解だったのか分からない。それでも、松川さんを置き去りにしなかった徳重さんは妙に優しい表情をしていた。たぶん、徳重さんの中にも格式高い名店で遊ぶよりも大切な気持ちがあったのだろうと思う。おっさんとおっさんの友情は意外にも深いのだ。 「なかなかすごいイメクラでよ、制服姿で来るだけじゃなくて、小さい黒板まで持ってくるの。そこに方程式を書いて解かせるんだけど、女の子は解けないのな。それでお仕置きをする設定でプレイが始まるんだよ」  方程式が解けないことでイメクラ嬢がエッチなお仕置きされるらしい。 「それはめちゃくちゃ激熱の方程式ですねえ」  僕の言葉にまた徳重さんが優しく笑ったような気がした。 ロゴ/ヒールちゃん(@heelhell) イラスト/井上菜摘(@natsumi19900325
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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