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「ケンダマンの気持ち考えたことあるのか」完璧超人を巡る老婆と少年のナゾ問答

チャーハンだけが入れない、バアさんの店

 そこは普通の民家の庭先に置かれたプレハブみたいな場所で、本当に「バアさんの店」という看板が入口の近くに置かれていた。バアさんが店番しているからバアさんの店だって子供たちが勝手にそう呼んでいるのではなく、本当にバアさんの店だったのだ。  ただ、店番している女性は、バアさんと呼ぶにはいささか若く、今にして思えば40歳くらいの女性だったように思う。  「今日はガムラツイストいくぜ」  「俺はジュエルキャンディー」  みたいな会話を交わしながら意気揚々と店内へと入っていく皆を尻目に、チャーハンが店に入ろうとしなかった。一番に入店してコスパの良さそうなお菓子を買い漁りそうなのに、チャーハンは門のところでジッと動かないでいた。  「どうしたの? 入ろうよ」  そう声をかけると、チャーハンは首を横に振った。  「俺は入れないんだ」  どうやらバアさんから「入店を禁止する」と言い渡されたようなのだ。当時は「出禁」なんて言葉が僕らの文化にはなかったけど、いま考えるとしっかり「出禁」だったのだと思う。

「思いやりのない子」とみなされてしまったチャーハン

おっさんは二度死ぬ 詳しい経緯はこうだ。当時、クジを引いて出た番号に応じてキン肉マン消しゴム、いわゆるキン消しがもらえるクジがあった。壁に数多くのキン消しがぶら下げられており、番号が振られている。チャーハンはそのキン消しクジにご執心でどうしてもアシュラマンのキン消しが欲しかったようなのだ。  ある日、チャーハンはただならぬ気配みたいなものを感じ取った。なんだか今日はアシュラマンを当てられる気がする。そんな予感がした。絶対に今日は当てる、そう決意してお小遣いを投入し、キン消しクジを引いた。  引き当てたのはケンダマンだった。けん玉をモチーフにし頭部が鉄球になった完璧超人だ。ただ、ハズレ扱いのキン消しだったので、狙っていたアシュラマンより3サイズくらい小さいものだった。  失意のあまりチャーハンが呟いた。  「ちぇ、ケンダマンか」  それを聞いたバアさんは怒り狂った。お前はケンダマンの気持ちを考えたことがあるか。自分を当ててくれた子供が「ちぇ」なんてふてくされた態度をとる、それをみたケンダマンの気持ちがなぜわからないのか。人とは思いやりの生き物である。そんな思いやりのない子供はうちの店に入店させない。  かくして、チャーハンは「ケンダマンの気持ちを考えなかった」という理由でバアさんの店を出禁になったのである。なかなか理不尽が極まっている。  「俺に思いやりがなかったからさ。ケンダマンに対してさ……」  チャーハンはそう言って目に涙を浮かべていた。まるで大罪を犯した囚人のように、反省の表情を見せた。
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こんな理不尽なことがあって良いのか
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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