更新日:2021年09月10日 15:47
エンタメ

おっさんはなぜ、関係のない話を急にぶっ込んでくるのか?

突如、議論をぶった切ったマサさんの言葉

 「ということは「金券を贈る」が4票ですね」と確認のメッセージを送った時だった。マサさんがそれに続いて発言したのだ。  「おれ、中学生の時に生徒会長選挙に立候補したんだけど、全校で4票しか入らなかった」  意味不明だ。4票の部分でかかっているとはいえ、いまの贈りもの議論には全く関係ない話だ。マサさんの中学時代の生徒会選挙、驚くほど無関係だ。もちろんあまりに無関係なので全員がしっかりスルーし、議論の中心は「どこの金券にするか」「いくらずつ出すか」みたいな方向に移っていった。そこでも様々な議論があって、やっと決まったところでグループラインは解散となったのだけど、あとあとになって考えてみるとどうしても疑問が残った。  「なぜあそこで自身の生徒会長選挙のことを話さねばならないのか」  考え出すとだんだん腹が立ってきた。おっさんは往々にしてこういった意味不明な自分語りをぶっこんでくることがある。おっさんの多くは過去に生きているのだ。それ自身は別に悪いこととは思わないけど、それをぶっこんでくるタイミングがあまりに意味不明だ。それが空気読めないおっさん、みたいなイメージになり、我々おっさんの印象を悪いものにしていくのだ。  これはとっちめてやる必要がある。どうしてあの場面でその話をしたのか、徹底的に問い詰めてやる必要がある。それが我々おっさんの地位を向上とまではいかなくとも現状維持くらいにはすることに繋がるはずと信じて疑わなかった。  「マサさん、ちょっといいですか?」  もう、おっさんどもは晩酌でもしているであろう時間になって、マサさんに個別メッセージを送った。

マサさんが語り出した生徒会選挙の思い出

 「いま晩酌してたとこ」  返事はすぐに返ってきた。予想通りだ。  「昼間の話なんですけど、なんであのタイミングで生徒会長選挙のことぶっこんだんですか」  そう訊ねると、マサさんは「ああ……」と言った後に切々と語り始めた。あの日の生徒会選挙のことを。  マサさんが通っていた中学は1学年が200人ほどのそこそこの大所帯で、3学年600人ほどの生徒がいたそうだ。生徒会長選挙は大々的に行われるが、ほとんどデキレースのような状態で、1年生のころから生徒会に所属している生徒が3年まで上がって前の生徒会長から受け続く、みたいに連綿と繋がっていくスタイルだったらしい。早い話、いきなり生徒会長になりたいと志しても、そもそも立候補できない感じだったようだ。  立候補の受付自体が生徒会内で処理されてしまうので、広く募集をかけられることがなく、気が付けば締め切られていて、形だけの選挙を行うために生徒会内から2名立候補し、勝ったほうが生徒会長に、負けたほうが副会長になる。どちらが勝つかもだいたい決まっている感じだったようだ。そして就任した生徒会長が、またお決まりのメンバーを生徒会役員に指名していく。そんな状態だ。  ただ、その閉鎖的な状態に、それはおかしい、と声をあげた人がいた。それはマサさんかと思ったら、マサさんではなかった。もっと正義感の強い、熱い志を持った男だった。そいつが閉鎖的な生徒会システムを打ち破ってやると、規則を調べまくり、何度も交渉を重ね、見事に既存の生徒会以外から立候補することに成功したのだ。
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軽い気持ちで立候補してしまったマサさんを待ち受けていたのは
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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