更新日:2021年09月10日 15:47
エンタメ

おっさんはなぜ、関係のない話を急にぶっ込んでくるのか?

4票のありがたさをマサさんは力説した

 「ほろ苦い思い出よ」  マサさんはそう言った。  4票しか入らなかった経緯は分かった。ただ、どうしてあの場面でそのほろ苦い思い出を持ち出したのか。僕が訊きたかったのはその理由だ。  「でも、あの場面でその思い出を語る意味はないですね? 金券にするか高級品にするか、その場面で出す意味はないですよね?完全に空気読めない発言ですよね」  そう主張すると、マサさんは、そう受け取ったのかと、まさに心外といった返答をしてきた。マサさんなりにはアレには意図があったらしい。  生徒会長選挙で4票しか入らなかった思い出は確かにほろ苦いのだけど、逆に、それはマサさんにとって誇りでもあるのだ。あの激しい対立選挙の中で、自分ですら自分に入れなかったのに、4人の人が自分に入れてくれた。たとえそれがおふざけであろうとも、4人もの人が真剣に自分のことを考え、票を投じてくれた。それはこれまでのマサさんの人生にとって誇りと支えになっているらしい。

 おっさんの頭の中では整合性がとれている

 結果はどうあれ、考えてくれたことがうれしい。贈りものもそうじゃないか。高級品なのか、金券なのか、その結果はどうであれ、そこまで考えて皆が議論してくれることこそが、受け取る人は嬉しいんじゃないの、こうやって議論すること自体が贈りものだよね、ということを伝えたかったらしい。  「いや、それくらい読み取ってくれるかと思ったよ」  読み取れるわけないだろ。  おっさんはとかく無関係な話を突如としてぶっこんでくることがある。それは本当に周りの人からしたら無関係で完全に空気が読めていないのだけど、実はおっさんの中ではけっこう整合性をもって繋がっていることがあるのだ。  「あー、そうそう下駄箱以外にももうひとつ演説で主張したわ。学校の校章をドクロにしたいって。おれけっこうドクロ好きだからさ」  もう生徒会選挙の話は終わったのに、またマサさんがぶっこんでくる。これもきっとマサさんなりには頭の中で繋がっていることなんだろうと思う。 ロゴ/ヒールちゃん(@heelhell) イラスト/井上菜摘(@natsumi19900325
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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