更新日:2021年09月10日 15:47
エンタメ

おっさんはなぜ、関係のない話を急にぶっ込んでくるのか?

軽い気持ちで立候補してしまったマサさんを待ち受けていたのは

 その革命家のような熱い男は、自分が立候補するだけでなく、ひろく立候補者を募り、熱い選挙を展開しよう、それが学校を良くすることに繋がる、と提案し、立候補を呼び掛けた。多くの生徒が「ちょっとおれも立候補してみようかな」という雰囲気になった。マサさんは、その雰囲気に流されて、みんなも出るみたいだしなんだかおもしろそう、と立候補してしまったのだ。  悪いことに、多くの生徒は雰囲気に流されていながらも直前で立候補を思い留まり、結果として立候補したのは旧態依然の生徒会の候補と、革新派の熱い男、そしてマサさんだった。完全に場違いな候補になってしまったとマサさんは後悔した。  選挙戦は熾烈を極めた。これまで培ってきた生徒会ネットワークを使って早々に地盤固めを始めた生徒会候補と、登校時に下駄箱のところで「これでいいのか生徒会?」というキャッチーなコピーが印刷されたビラを配り始めた熱い男。マサさんは購買のおばちゃんにお願いしますと言っておばちゃんには投票権ないからと言われていた。  選挙当日。数十年ぶりにガチの選挙が行われるとあって先生たちは色めきだっていたそうだ。どちらが勝つか、保守派か、革新派か、先生たちの予想もヒートアップしていくが、マサさんは話題にも上がらなかったそうだ。

生徒会は三つ巴の戦いに。しかしマサさんは空気だった

 全校生徒が体育館に集められ、そこで候補が演説し、そのまま教室に戻り投票となる。すぐに開票がはじまり、その日の放課後には放送で結果が知らされるシステムだ。  最後の演説は熱いものになった。これまでの実績と伝統をアピールする生徒会候補。その伝統をぶち壊す革新派をチクリとけん制する言葉も見られた。熱い男は閉塞感をアピールし、それを打破すべきという演説を、時に声を荒げて行った。こうして本気の選挙戦が展開されることの意義、自分が立候補できた、もう革命は始まっている、その熱い言葉に、何人かの生徒の心が動いたようだった。 おっさんは二度死ぬ 最後に演説に立ったマサさんは、とくに熱い対立や主張があるわけではないので「いまはクラスごとに分けられている下駄箱だと、位置が高くて届きにくい女子がいるようなので、男女別にして女子を下段にします」と主張したそうだ。僕はこれ、けっこういい政策だと思う。ただ、保守派と革新派の激しい対立からはあまりにかけ離れ過ぎていた。  灼熱の選挙戦は終わった。開票結果が放送される。600人の生徒が投票率100%で行う選挙、マサさんの得票数は4票だった。600票あって4票だ。
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4票のありがたさをマサさんは力説した
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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