「俺の食に密はない」。久住昌之がコロナ禍の食と酒を語る
「俺の食に密はない」その真意は?
久住:別に深く考えてツイートしたわけではなく、ずっと井之頭五郎はそうだったんですよね。一人でお店に入って、黙って飯を食べて帰る。それに、これだけ多くの人が共感したというのはびっくりしました。 ――「飲食店がんばれ」という時に、政治的な主張も含めて投稿する人が多い中で、シンプルなメッセージが刺さったのではないでしょうか? 久住:シンプルっていうか、理屈がないんですよ。五郎はいつも、ひとりで食いながら頭の中でごちゃごちゃ考えてるわけで、それを僕は「こいつ、バカだな~」と思いながら、その滑稽さや面白さを書いている。「俺の食に密はない」も考えたらバカですよね。政府に言うんじゃなくて、自分で自分に言ってるんだもん(笑)。 そうそう、よく「どうやったら一人でも楽しく食べられますか?」って聞かれることがあるんだけど、そんなに頑張ってまで楽しまなきゃいけないことかな?って思うんですよね。 ――みなさん、一人で食べることに気負ってしまうというか、結構ハードルが高いのかもしれないです。 久住:「ハードル」なんて言葉がもう辛いね。「一人飯を楽しむぞ!」なんて気張らなくていい。今は一人で行くしかないから仕方ねーなーってぐらいの感覚で行けばいいんじゃないかな。井之頭五郎も、いっつも腹が減って仕方なく、店探して入ってます。「孤食を楽しもう」なんて気持ち、微塵もない。 ――早く、普通に飲みに行きたいですよね。 久住:普通にね。今は、普通じゃないから。ドラマ『孤独のグルメ Season9』(金曜24時12分~)の第2話に出た、金目の煮付定食が登場する二宮(神奈川県中郡)のお店(『にしけん』)も、オファーの連絡をした時点では、予約が入った時だけの営業だったんですよ。 「もう俺も歳だから、店辞めてもいいんだけど、コロナで辞めたみたいに思われると癪だからな」とおっしゃっていました。ドラマの話も以前だったら受けていなかったかもしれないけど、こんな状況だからやってみようかなと引き受けてくださったんだそうです。 癪だって気持ち、すごーくわかるんですよ。自分のいきつけのお店のご店主も「引き際ぐらい自分で決めたいんだよ」と言ってましたが、本当にそうだなあ、と沁みました。それぞれのお店にそれぞれの事情があるだろうけれど、何とか乗り越えてほしいです。 ――では最後に、飲食店へ応援のメッセージをお願いします。 久住:戻るべき「普通の世の中」が見えなくなりつつあります。でも、「お店で食べたり飲んだりする」楽しさ、大切さは絶対変わらない。僕はそれがなくならないように、漫画や文章や音楽で応援していきたいです。 ただ食事をする場所、お酒を飲む場所というだけじゃなくて、いきつけのお店が自分にとって大事な居場所になっている人もたくさんいますよね。不自由なく食事をしてお酒を飲めるようになる時が来るまで、ともにがんばりましょう! (取材・文/山脇麻生 撮影/加藤 岳)俺の食に密は無い。がんばれ、飲食業界。井之頭五郎 pic.twitter.com/waQr5dKI0E
— 久住昌之 (@qusumi) January 13, 2021
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