あらゆる年代の人がいる職場はまさに“世代のルツボ”。特に社会に出て間もない人にとって、過重労働が社会問題になっている時代にあって嬉々として“徹夜仕事”をしたり、なんでも電子化、レンタルできる世の中で“モノにこだわる”40代以上の世代は奇異に映るかもしれない。
社会の文脈的に“ロスト”されてきた世代は、日々どんなことを想い、令和を楽しもうとしているのか。貧乏クジ世代と揶揄されつつも、上の世代の生態をつぶさに観察し、折衝を繰り返してきたロスジェネ世代の筆者ふたりが解説していく。
クルマを「買う派」vs「借りる派」論争はなぜ起きるのか?
「念願の二人目の子供を授かりました!コロナ禍で外出もなかなかままならないし、家族みんなで楽しくドライブでも行けるといいねということで思い切ってクルマを購入。都内はカーシェアも随分と便利になってきたので悩みましたが、やっぱりクルマはちょっとした夢でしたし!地元にいた頃は結構好きでよく乗っていたからやっぱり嬉しい…。ところがそんな話を若い後輩達に話したら一様に『カーシェア一択』だそうです。クルマを持っていることって、もうステータスじゃないのかなぁ…」(47歳・飲料メーカー)
クルマを「買う」か「借りる」かは、一つの判断になってきています。日本国内でも特に都市部ではカーシェアリングやサブスクリプションのサービスがかなり増えてきて、クルマを所有することは「贅沢なこと」になってきているのが実感できます。
「
わが国の自動車保有動向」(出典:財団法人・自動車検査登録情報協会)を見ると、2000年代まで伸び続けてきた国内の自動車保有数も、2007年頃を境に以降は8,000万台前後で横ばい状態といったところでしょうか。
若者のクルマ離れもこの数年よく聞く話です。ナイル株式会社の調査によると「自動車が必要だが持っていない」東京都以外の18歳〜29歳の若者に「なぜ必要なのに持っていないのか?」と聞いています。
結果は「免許を持っていないから」が38.6%で、次に「お金がかかるから」が30.9%と、その経済事情を理由にする人たちがかなりの数をしめています。駐車場など維持費の高い都内ではより顕著になりそうです。
とはいえ、「生活に自動車は必要ですか?」の問いには、東京都外では67%、都内でも43%が「必要」と回答していることから、どうやら「欲しくてもお金がかかるから無理=買う気にならない」ということなのかもしれません。
一方、ロスジェネ世代の多くはちょうど家庭を持ち、子供も小学生に成長したりと、買い物やレジャーなどの移動手段としてクルマを必要とすることが増えてくる年齢。それまで経済的な余裕がなかったが、年収も増えてきたことだし、せっかくならカーシェアではなく「思い切って買うか!」となるケースはとても多いのだと思います。
そんな折に「買う派」と「借りる派」に分かれるというわけです。しかしながらここには、こうした経済的な条件だけではない、もう少し深いロスジェネ世代の育った環境や文化的な背景も影響しているのではないかなと考えるのです。
戦後の高度経済成長時代、自動車産業の隆盛と合わせて、クルマというステータスが生活に根付いていました。文化を写す鏡である歌謡曲に目を向けると、小林旭が1964年にリリースした『自動車ショー歌』という大ヒット曲が思い出されます。
次々登場する世界各国の名車の名前をダジャレにしながらの「好きな彼女とのあれこれ」を唄ったこの曲は、 “クルマを持つ”というステータスであったり、もっとダイレクトに言うと“乗ってるとモテる”という当時の若者のクルマへの憧れや欲求が歌詞になったものでした。
さらに時計をぐぐっと進めて1980年。忌野清志郎率いるRCサクセションによるストレートなロックナンバー『雨あがりの夜空に』がバブルの頂点に向かう日本の景気とともにスマッシュヒットしました。今では日本のロックのスタンダードの一曲として人気バラエティ番組『アメトーーク』のテーマソングとしても有名ですが、その歌詞はダブルミーニングで彼女との情事を唄ったちょっとセクシャルなナンバー。
1994年になると小沢健二が唄うトヨタ・カローラIIのCMソング『カローラIIにのって』がヒット。彼女とのドライブを心地よいメロディで描いています。クルマを持つというステータスは、そんな感じで若者のリアルな生活に密接に関わっていました。単なる移動の手段だけではなく、カルチャーの一部。もっと言うと恋人ができるかどうかはクルマ次第!?くらいの存在価値が、当時のクルマ所有にはあったのだと思います。
数々の雑誌を渡り歩き、幅広く文筆業に携わるライター・紺谷宏之(discot)と、企業の広告を中心にクリエイティブディレクターとして活動する森川俊(SERIFF)による不惑のライティングユニット。
森川俊
クリエイティブディレクター/プロデューサー、クリエイティブオフィス・SERIFFの共同CEO/ファウンダー。ブランディング、戦略、広告からPRまで、コミュニケーションにまつわるあれこれを生業とする。日々の活動は、
seriff.co.jpや、
@SERIFF_officialにて。
紺谷宏之
編集者/ライター/多摩ボーイ、クリエイティブファーム・株式会社discot 代表。商業誌を中心に編集・ライターとして活動する傍ら、近年は広告制作にも企画から携わる。今春、&Childrenに特化したクリエイティブラボ・C-labを創設。日々の活動はFacebookにて。
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