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ウンコを我慢して薄れる意識の先に見えた、彼岸花

多目的トイレを使うため受話器を取った

 多目的トイレも強固に鍵が閉ざされていた。ただしそれは使用中というわけではなく、使用する場合は備え付けの内線電話で申し出るシステムだったようだ。おそらくこの多目的トイレを某お笑い芸人みたいな感じで変なことに利用する人が多いため、こういう対応になったのだと思う。  そろそろ臨界を迎えつつありながらもなんとか気力を振り絞り、プルプルと震える手で受話器を取る。 「はい、警備員室です」  声の感じから、けっこうご老人な感じの警備員さんが出た。 「あの、すいません、多目的トイレを使いたいんです。本当に切羽詰まっていて、男子トイレの方は故障中だし、もう一つは出てくる気配がない不動明王みたいな感じだし」  切実な感じを積極的にアピールする。 「あー、鮮魚コーナーですか?」  耳が遠いのか、なかなか話が通じない。鮮魚コーナーの話はしていない。 「多目的トイレです! けっこうやばいんです!」 「ああ、トイレね。いま行くから待ってくださいや」  どうやら遠隔操作というわけでなく、わざわざ警備員さんが鍵を開けにくるシステムらしい。なんとか助かった。

肛門が限界を迎え、走馬灯が見えたその時

 あとは警備員さんが鍵を開けに来るのを待つだけだ。よく持ってくれたな俺の肛門、と自らの肛門を褒めたたえながら待つも、いっこうに警備員さんが来ない。間違えて鮮魚コーナーに行っているんじゃないかと思うほどに来ない。  うおー限界だー。  と様々なことを覚悟し、走馬灯みたいなものが見えたそのとき、かなり遠くからゆっくりと、ゆっくりと、牛歩戦術みたいな感じでご老体の警備員さんと思われる人が歩いてきた。  大陸プレートの沈み込みにより、日本列島とハワイは年間に数ミリ、近づいているらしい。ゆっくりとゆっくりと、信じられないゆっくりさでハワイが近づいている。警備員さんはそれを思い出すくらいのゆっくりさだった。死ぬ死ぬ。マジで死ぬ。  なんとかハワイ、じゃないや、警備員さんが到達して、鍵を開けようとする。 「いやね、高校生とかが変なことするからこうなったのよ。あいつら何時間も入っていたりするからさ」 「とんでもないやつらですね」  そんな会話を交わしながら警備員さんが鍵を開けようとするのだけど、めちゃくちゃ鍵がたくさんついている鍵の束のどれが多目的トイレの鍵かわからないらしく、これでもない、これでもないとやりはじめた。明らかに大きさが違う鍵まで試し始めた。死ぬ死ぬ。ガチで死ぬ。  いよいよダメか。ブリブリいくかと覚悟したとき、ガチャリコとドアが開いた。
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ようやく安息の地にたどり着いたかと思ったのも束の間
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