今年9月、28年ぶりにアサヒビールより復刻販売された『アサヒ生ビール(通称マルエフ)』の缶。まろやかな味わいやぬくもりのある世界観が好評で、想定を上回る売れ行きを見せている(供給が間に合わず一時休売をし、11月24日から再発売)。飲食店でのみ継続的に販売が続けられ、知る人ぞ知るビールだった『マルエフ』を缶で楽しめるようになったのは嬉しい限りだが、昔から『マルエフ』の樽生を推し続けてきたこだわりの酒場に足を運べば、名人が注いだ『マルエフ』を楽しむこともできる。そもそも、『マルエフ』がそういった酒場で愛されてきた理由とは? その答えを求めて、『孤独のグルメ』原作者の久住昌之さんと、東京・神保町にある1909年創業の老舗ビヤホール『ランチョン』を訪ねた。
神保町駅からすぐ近く、靖国通り沿いにある老舗ビヤホール『ランチョン』
靖国通り沿いのエントランスからシャンデリアの下がった螺旋階段をあがると、110席ある広々とした店内。随所に懐かしいポスターやノベルティーが置かれ、この空間だけ時の流れが外とは違うかのようだ。実はこちら、久住さんの思い出の店なのだという。
思い出の店『ランチョン』で『マルエフ』を味わう久住さん
久住:僕は若いころに1年間、美学校という美術学校に通っていたんです。赤瀬川原平さんのクラスの生徒でね。それまで神保町は未知のエリアだったんだけど、個性的な本屋がたくさんあって、面白そうな本がたくさん並んでいて、安くて美味しい店も多い。この街が大好きになって、卒業後も遊びに来ていたんです。『ランチョン』に初めて来たのは、それこそ(赤瀬川)原平さんに何人かで連れてきてもらったんだったかな。それからひとりでも来るようになって、仕事を始めてからも神保町の小さな出版社の人に連れてきてもらったりしてね。
白シャツにボウタイ姿の四代目マスター・鈴木寛さんがビールを注いでくれた。店のロゴをあしらった特製グラスに水のベールをまとわせ、ビールサーバーから勢いよくビールを注ぐ。泡が静まってから、さらにビールを継ぎ足す二度注ぎ、三度注ぎのスタイルだ。やがて、高く持ち上がった泡が神々しいビアグラスが運ばれてきた。胸ポケットに入れたコースターをサッと出し、ビールをサーブする鈴木さん。一連の所作が何とも美しい。
ビールサーバーから勢いよく『マルエフ』を注ぐ店主の鈴木寛さん
神々しいほどのマルエフの泡!
古書店巡りの戦利品を眺めつつマルエフを一杯
久住:あぁ~、やっぱり旨いなあ。ここは2階にあって、窓際のテーブル席から古書店街が見えるのがいいですよね。特に暑い日なんか、古本屋を巡って、買ってきた本をここで開いて、ビールを飲みながら下界を見下ろすのが最高に気持ちいい(笑)
鈴木:神保町は土曜日になると地方から本屋巡りに来る方が多いんです。両手に戦利品の束を持ってウチに来て、窓際の席で荷をほどいて、ビールを飲みながら眺めるのが土曜日のお客さまのスタイルなんですよ。
久住:テーブルも大きいから、本を広げるのにちょうどいい。窓際の席は人気で、だいたい誰かに取られていますけどね。あと、料理もいい。例えば、「ランチョン風ポテト料理」。名前が漠然としすぎていて、最初は何が出てくるかよく分からないまま頼んだんだけど、じゃがいもと海老をスープで煮込んだシンプルな料理なんですよね。これがものすごく美味しい。
鈴木:ポテト料理は塩ぐらいしか入れていない、本当にシンプルな料理なんです。それにしても、久住さんがいらしてるとは気付きませんでした。
久住さんが好きな『ランチョン風ポテト料理』
久住:結構、来てますよ。42歳の時、美学校で先生みたいなことをすることになって、生徒が少ない時は連れてきたりして。みんな、こういう昔のスタイルが残っているお店に初めて来たからか、珍しがっていろいろ頼んだりして楽しかったです。自分が(赤瀬川)原平さんに連れてきてもらって面白かったから、今度は自分の生徒にも経験してもらおうって思って。
鈴木:そうでしたか。それにしても、気付かなかったなあ。僕は、実は『孤独のグルメ』のドラマが大好きで。
久住:嬉しいなあ。
鈴木:しかも、五郎より、久住さんの方が好きなんです。
久住:あはは。五郎はビール飲めませんもんね。
酒場にあって変わったもの、変わらないもの
変わったものと変わらないもの。酒場の歴史を語るふたりの話は尽きない
久住:昔のビヤホールってなぜか日本酒も置いてありますよね。で、後半になると頼む人が出てくるという。なぜビヤホールに来て日本酒を飲んでるんだ?というのが傍から見ていて面白い。
鈴木:最近は後半になるとワインという方が増えました。時代、時代で出るものは変わりますね。客層も変わって、女性客がすごく増えました。このビルになったのは40年ぐらい前なのですが、女性がひとりで飲みに来ることはまずなくて、当時は女性トイレのブースがひとつしかなかったんです。今は男性トイレをひとつ減らして、女性トイレに改装しました。
久住:今は、女性がお店でひとりでビールを飲んでいるなんて普通ですもんね。でも、店内の雰囲気は昔からあまり変わらないですよね。
鈴木:そうですね。ここが出来てから、ほとんど変わってないです。
『マルエフ』の缶はぜひグラスに空けて飲んでほしい
久住:今回のマルエフの缶のジャケットは勝負でしたよね。従来の商品のものを一部変えるとかではなく、アイボリーに紺っていうルーツのないデザインというか。おしゃれすぎず、オーソドックスなところもあって、家飲みにもいい。
――家飲みの様子と一緒にマルエフの缶の写真をSNSに投稿する人も多いようです。
鈴木:ウチはアサヒと昔からのお付き合いなんですが、『マルエフ』はうちのお客様の間ではひときわ「美味しい!」と評判だったようです。
久住:長い付き合いなんですね。やっぱりアサヒですか。
鈴木:なかでもやはりマルエフですね。コクがあるのにキレもあって、口当たりまろやか。何より味がいい。今まではビヤホールでしか飲めないビールだったので、お客様もそれを求めて店まで足を運んでくれて。
久住:いいお客さんですね。
鈴木:だから正直、缶が発売されると聞いた時は複雑でした(笑)。
久住:でも、ビアホールで飲むのはまた別の美味しさがあるから大丈夫です!(笑)
鈴木:うちのビールは、キンキンに冷やしていないんですよ。気温や天候にもよりますが、だいたい10度から11度のものをグラスでお出ししています。ジョッキは置いていません。なかには、「ぬるい」とおっしゃるお客様もいらっしゃるんですけど。
久住:キンキンじゃないほうが美味しいのにね。
鈴木:はい。冷やしすぎると、どうしても、どのビールの味も似てきてしまって。だけど、マルエフは味がいいビールなので、必ず、冷やしすぎないで飲んでもらいたいんです。そして、『マルエフ』の缶を飲む方にお伝えしたいのは、飲むときはぜひグラスに空けて飲んでほしいということ。そうすると、ガスが抜けて味がまろやかになるんです。僕は新幹線に乗る時もプラカップを持っていって飲んでいますよ。
久住:僕も新幹線に乗るときはプラカップをもらいます。そのほうが絶対に美味しいですよね。
家飲みで楽しむ際も、ぜひグラスに空けてまろやかな味わいを堪能してみて!
味わい、デザイン共に今のライフスタイルに寄り添ったマルエフ。家飲みの際はぜひお気に入りのグラスに空けてまろやかな味わいを堪能してほしい。
(取材・文/山脇麻生 撮影/加藤 岳)
<提供/アサヒビール株式会社>