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「今の加熱式たばこは最終形ではない」“脱たばこ”社会でJTができること

 大人の嗜好品としておなじみのたばこ。これまでも葉巻(シガー)や紙巻たばこ(シガレット)が主流となって、喫煙文化を形成してきた。そして、2010年代に入ってからは急速に“加熱式たばこ”が普及し始めた。日本で加熱式たばこの市場を切り開いたのは、米フィリップ・モリス社の「IQOS(アイコス)」だ。  2014年に国内で発売以来、加熱式たばこブームの牽引役としての地位を築いてきた。  そんな加熱式たばこの隆盛に追随するべく、JT(日本たばこ産業)も「プルームブランド」を市場へ投入し、愛煙家の需要喚起を図っている。  しかし近年、たばこにおける健康の是非が問われるようになったほか、2020年4月の改正健康増進法では屋内が原則禁煙となり、喫煙者にとっては厳しい状況になった。  たばこを吸う人にとっては、肩身の狭い世の中になったと言わざるを得ないなか、たばこを販売する企業はどのような心境を抱いているのか。
岩瀬健太郎

日本たばこ産業株式会社 たばこ事業本部 商品企画部長の岩瀬健太郎さん

 今回は日本たばこ産業 たばこ事業本部で商品企画部長を務める岩瀬健太郎さんに、たばこにおけるニーズの変遷やたばこ市場の未来について話を伺った。

たばこは太古のマヤ文明から存在、日本では江戸時代

 岩瀬さんは、一口にたばこと言っても「その歴史は非常に長い」と冒頭に話した。 「たばこの歴史を紐解くと、実はマヤ文明の祭りごとでたばこが使われていたんです。これは今でも、人類とたばこのつながりを示す最古の記録として残っていて、たばこの歴史の長さを物語っています」  北米先住民の間では、部族間の“和を結ぶ”儀式の際や、病気の治療にも用いられてきた。 「転機になったのは、1492年にコロンブスがアメリカ大陸に上陸したとき。現地の原住民からたばこをもらったことで、ヨーロッパ各地にたばこがもたらされるきっかけになりました。その後は貴族だけが嗜む高級品から、産業革命以降は一般の大衆者にもたばこが広まるようになっていったんです。吸い方もパイブや葉巻たばこ、紙巻たばこなどのように広がりを見せ、いわば嗜好品としての地位を確立していったんですね」  日本にたばこが持ち込まれたのは江戸時代。庶民を中心に嗜好品として広まり、日本独自の喫煙文化が形成されていった。  明治時代からはたばこの大量生産が始まり、日本の近代化とともに紙巻たばこも世の中に普及するようになる。

時代の節目ごとに「革新」が生まれている

 そんななか、たばこの需要は1966年をピークに喫煙者率が下降線をたどるようになり、市場は縮小している状況にある。 「喫煙者率が下がっているのは、少子高齢化の影響やたばこ規制の進展、増税による値上げ、健康志向の高まりなど、複合的な要因が絡み合って生じていると考えています。また、1人当たりのたばこの消費量自体も減ってきています」  それでも「節目ごとにイノベーションが生まれてきている」と岩瀬さんは続ける。 「フィルター付きの紙巻たばこの登場や、雑味を少なくしてスムーズな吸い心地を味わえるチャコール(活性炭)フィルター、健康志向の高まりに合わせて作られたタールの量が少ないたばこ……。時代の変遷に合わせてさまざまな種類のたばこが発売されるようになりました。  その流れで2016年以降には、急速に加熱式たばこの需要が伸長し、今では愛煙家のうち紙巻たばこが70%、加熱式たばこが30%の割合にまで増えています。加熱式たばこの出始めの頃は“得体の知れないもの”というイメージから、新しもの好きな喫煙者が手に取るものでしたが、最近はだいぶ成熟してきている印象を受けます」
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“脱たばこ”の時流であっても、やれることはたくさんある
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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