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催涙弾が飛び交う香港民主化デモを撮影した“音楽”カメラマン「恐怖心よりも“知りたい”」

昼夜を問わず仕事の毎日「修行だと思っていた」

香港

写真は『VOICE 香港 2019』より

「とにかく早く独り立ちして、自分で食べていけるように必死でした」  大学卒業後はふたりのプロカメラマンのアシスタントや3年間のスタジオ勤務などを経て、27歳で完全に独立してフリーランスとなった。 「昼間は師匠のアシスタントとして働きながら、深夜の隙間時間に自分が受けた仕事としてストリート誌でクラブのスナップをこなしまくって。ほとんど寝ないまま、翌朝は別のファッション撮影みたいな生活。まさに、修行だと思っていました」  人の縁にも恵まれながら仕事のステージを上げていくが、キセキさんは「プロになれたという実感は特になかった」と話す。 「客観的に見れば、写真でお金を稼いでいるのでプロなのでしょうが、自分がまったく上手いとも思えず、上には上がいると知った。音楽業界の仕事だけでもそう感じているのだから、別のジャンルまで含めれば、まだまだなんだろうって」

幼少期を過ごした香港

香港

写真は『VOICE 香港 2019』より

 転機となったのは2016年。キセキさんはアーティストのアジアツアーにカメラマンとして帯同していた。そのなかに香港公演があったのだ。1989年〜1992年まで、当時はイギリス領だった香港で過ごしたキセキさん。  あれから約25年の月日が経過していた。空き時間にひとりで街まで出てみると、幼少期の記憶がよみがえってくる。 「住んでいた頃にはわからなかったのですが、ものすごいパワーに溢れているなって。急速に経済発展する一方で貧困がある。貧富の差が激しいのに、なんでこんなに元気なんだろうって。自分がどういう場所で育ったのか、もっと知りたい。きちんと自分の足で歩いてみたくなったんです。香港に圧倒されて以降は、毎年訪れるようになりました」  ここまでは順調にも思える。だが、その一方では前述のように仕事や人間関係で神経をすり減らし、思い悩むようにもなっていた。 「あまりにも働き過ぎていたせいか、心と身体のバランスを崩すようにもなっていました。それで、いったん仕事を休んで、香港に腰を据えて向き合おうと思ったんです」  2019年7月、そんな思いで訪れた香港だったが……。キセキさんは奇しくも民主化デモに直面し、その渦中に飛び込むことになったのだ。
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「私は何にも知らなかったんだな」
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明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

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VOICE 香港 2019

「2019年6月から香港で起こったことを忘れないでください」──これは逮捕されたデモ隊の言葉だ。2019年の香港民主化デモの最前線とそこに暮らす人々を撮影した写真家・キセキミチコによる写真集。

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