更新日:2023年05月15日 13:05
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米中冷戦、香港問題を他人事のように眺める日本/倉山満

本当に国際社会が中国崩壊を望んでいるのか? 甘い言論は慎むべきだ

言論ストロングスタイル

2019年7月15日の本連載冒頭を繰り返したい。「日本人にとって、香港情勢と消費増税は独立した二つの問題ではなく、つながっている一つの問題である」写真/時事通信社

 かつて、アメリカは地球の覇権をかけてソ連と冷戦を戦い、勝った。ただし、容易な道ではなかった。  1981年にドナルド・レーガンが大統領に就任するや、ソ連を「悪の帝国」と看做し、本気で潰すべく戦いを挑んだ。まず経済を立て直し、同盟国との結束を強化し、軍拡競争を挑んだ。裏では諜報(スパイ)戦も仕掛けた。アメリカが強大な軍備を持とうとすれば、ソ連も軍事力で引き離されまいと軍拡をする。さらにアメリカが軍拡をすれば……と競争しているうちに、ソ連経済が崩壊した。そして内紛により、国そのものが崩壊した。  1917年のロシア革命以来、74年も地球を恐怖のどん底に追い落としたソ連も、レーガンの強靭な意思の前に敗北した。ただし、レーガンの任期中には実現せず、同じ共和党の後任大統領のジョージ・ブッシュの時代、1991年のことだった。直接の戦闘こそ無かったが、同盟国の英仏独は必死で軍拡に協力し、勝利の果実を獲得した。特にドイツは、第二次大戦の敗北で生き別れになっていた東ドイツを奪還し、悲願の統一を果たした。  では、そのころ日本は? ソ連崩壊の混乱に乗じて千島二十五島を軍事占領でもするのかと思いきや、何もせず、いまだに北方四島すら返って来ない。呆然と、他人事のように眺めていただけだった。  現在のドナルド・トランプ大統領はレーガンを理想だと公言し、中国を敵視している。そして今や米中冷戦の様相を呈しており、その最前線が香港である。重大問題だ。  ところが、日本では相変わらず他人事として語る予想屋が蔓延(はびこ)り、「米英が中国を潰してくれる」などと楽観論が撒き散らしている。しかし、本当に国際社会が中国崩壊を望んでいるのか? そんな環境にあるのか? 甘い言論は慎むべきだ。  そもそも、ヨーロッパの外務省及び諜報機関は、ロシアと中東に最優秀の人材を送る。トランプが対中政策を強調しているので、ようやく中国に目を向け始めた程度だ。では、そのヨーロッパの中で、最後まで東洋に地歩を持っていたイギリスはどうか。  香港問題は、1997年の中国への返還時点で終了したとの認識である。少なくとも、イギリス本国は「返してしまったので、中国のもの」と、終わった話として扱う。だいたい、EU離脱問題に追われ、地球の裏側の香港に関わる余裕はない。  だから、現在の香港在住のエスタブリッシュメントの前提は、「外からの援助が期待できない以上、中国の支配下で生きる以外の選択肢があるのか?」である。  中国共産党内では、習近平と江沢民の血みどろの抗争が続いている。香港は同じ漢民族だからチベットやウィグルみたいな悲惨な目には遭わされないが、それでも「人を殺してはならない」という価値観が通じない為政者に取り囲まれているのは違いない。習近平と江沢民、どっちが勝っても人殺し。そんな中で生きている、香港人のリアリズムを舐めてはいけない。  もちろん、香港問題が蟻の一穴で習近平政権、あるいは中国共産党が潰れるかもしれない。ただし、考えにくい。少なくとも、今から予想して断言できる状況には、ない。
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日本のチャイナウォッチャーは…
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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