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催涙弾が飛び交う香港民主化デモを撮影した“音楽”カメラマン「恐怖心よりも“知りたい”」

「私は何にも知らなかったんだな」

香港

写真は『VOICE 香港 2019』より

 ビザの関係で語学学校に通うかたちで香港に滞在し、そこで生きる人たちを撮影することにしたキセキさん。その時点においてデモは、あくまで平和的に行われているものだったが、7月末頃から急に雲行きが怪しくなったという。  今まで見たことがない光景にショックを受けた。 「街が催涙ガスで真っ白になって、人が殴られたり、逮捕されたりする瞬間を初めて目の当たりにしたので。“私は何にも知らなかったんだな”って痛感しました」  そして、香港で何が起きているのか知りたくなった。平日の昼間までは語学学校、午後からはデモの撮影に出かけた。 「9月には相当激しくなっていました。デモで闘っている人たちは、びっくりするぐらい普通の学生が多かった。そのなかには、女のコも含まれている。『親には内緒』という子や、社会人でも『会社にバレたらクビ』で、こっそり参加している人も少なくなかったです。  だから、現場でも参加者の顔がわかるような写真は絶対に撮ってはいけないと言われていました。もしもデモに参加しているのが活動家や政治団体の人たちだけだったら、私もそんなに関心を持たなかったと思う」

心のどこかではわかっていたけど逃げ続けてきたこと

キセキミチコ  香港に惹かれた理由のひとつとして、“気づかされる”ことが多かったのだという。 「私はいろんなことに無知で無関心に生きてきたんだな、日本で悩んでいたのは小さなこと、みんなそんなところでは生きていない、もっと必死に生きている……。心のどこかではわかっていたけど逃げ続けてきたこと。それを突きつけられて、自分で自分に対して『だから言ったじゃん!』って」  撮影から家に帰ってくると、全身が汚れて催涙ガスまみれだった。そんななかでも恐怖心よりも知的好奇心が勝っていたと話す。 「良くも悪くも警察が何かを叫んでいてもまったく言葉が理解できず、“音”に過ぎなかったので。それよりも“知りたい”という思いが強かった。最悪、死ぬことはないだろうと高を括っていた部分もあります。ただ、振り返ってみれば、甘かったとも思いますね」
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自分がやるべきことは…
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明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi

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VOICE 香港 2019

「2019年6月から香港で起こったことを忘れないでください」──これは逮捕されたデモ隊の言葉だ。2019年の香港民主化デモの最前線とそこに暮らす人々を撮影した写真家・キセキミチコによる写真集。

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