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SMAPの昔の歌が、ウクライナ戦争で人気急上昇。今聴くべき名反戦歌の数々

ジョン・プラインが歌った、兵士のリアル

 そして、日本での戦争体験者がどんどん亡くなっていく中、戦争が個人にもたらす計り知れないダメージについて知る機会も減っています。アメリカのソングライター、ジョン・プライン(1946-2020)の「Sam Stone」(1971年)は、そのような一人の人間にクローズアップした楽曲です。ベトナム戦争で負った傷の痛みから、ヘロインの過剰摂取で亡くなってしまった兵士の物語。   <オヤジの腕に注射のあと 有り金ぜんぶ吸い込まれていった    きっとイエス様も無駄死にだったんだろうなぁ> There’s a hole in daddy’s arm where all the money’s gone Jesus Christ died for nothin’ I suppose (lyrics by John Prine 筆者訳)
 そこに、よき夫、優しい父親の面影はありません。まさに戦争によって人生が狂わされたことを、ほんの小さな注射針の穴が雄弁に物語ってしまう。  ジョン・プラインは、サム・ストーンが“すてごま”だとは明言しません。そうすることで、激しく異議を唱えることもしません。優れた歌詞は、青年の主張や新聞の社会時評的なアプローチを取らないからです。  代わりに、聞き手に強烈なイメージと問いを投げかける。注射針で穴のあいた肉体を、ゴルゴダの丘で釘付けにされたキリストと重ねることで、偉大さとみすぼらしさが背中合わせだとほのめかすのですね。この全く笑えない皮肉こそが、紛れもない事実なのだと。  戦争に賛成だとか反対だとかいう議論では何の気休めにもならない。抗うことのできない大きな力に飲み込まれたとき、一体個人に何が残るのかを考えさせられるのです。

無慈悲な現実にどう向き合うか

 日本を取り巻くパワーバランスが激変しているいま。戦後育んできた道徳的な反戦思想は守りつつ、一方で無慈悲な現実に対応するための準備も必要になってしまったように思います。  武力の存在そのものを否定する平和のメッセージは尊い。けれども、それは同時に決定的に無力であることも理解しなければならないのです。 <文/音楽批評・石黒隆之>
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4
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