更新日:2022年03月28日 10:24
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ボートレース70年の歴史で‟有利なはずの女子レーサー”がSGを勝てなかった理由

モーターの仕様が変更されて女子はさらに不利に!?

 その後、ボートレースは事故が起きた際の安全性を高めるためにモーターの仕様が改められて出力はダウン。筆者はこれによって女子がSGを勝つのはより難しくなったと当時は感じていた。なぜなら、モーターのパワーが体重が軽いことに対して引き波を乗り越える力を補ってくれなくなってしまったと思ったからである。  こうなったら、女子の最低体重優遇措置を無視して52kgで戦う女子が生まれないと厳しいだろうとさえ思っていたのだが、遠藤エミ選手はそんな筆者の浅い考えを、走り方で解決してみせた。

軽い女子選手の新しい戦い方を見せてくれた遠藤エミ選手

 そして11年後の2022年3月21日、遠藤エミ選手がボートレースクラシックで優勝した。遠藤選手の優勝までの節間はこうだった。まず初日は1号艇からイン逃げで勝ち、2勝目は2日目3Rで捲り差し。引き波を2本越えるレースだったが、大外から充分勢いをつけて可能な限り艇の勢いがある状態で決めた。3勝目は3コースからスタートを決めて捲り。外を回ったので引き波は1つも超えていない。  つまり、予選での3勝中2勝は引き波を避け、1勝は大外の不利を逆に活かし、スピードをつけて引き波を乗り越えるといった対応をしたということだ。いったん前に出てしまえば軽量でスピードが出て後続を寄せ付けない。まさに女子レーサーが男子と戦うときにとるべきベストの戦法を実践してみせたのである。  これにより予選トップ通過で準優勝戦も逃げ、プレッシャーのかかる優勝戦で1号艇を確保。スタートは多少もんだもののタイミングは遅れることなく、1マークを先制して逃げ切った。  予選トップで通過することで、準優勝戦、優勝戦をすべて1号艇にすることに成功し、引き波とは無縁な状態にもっていけたことは大きかった。ちなみに遠藤選手は初日の体重が45kg、優勝戦時は44kgで3kgのおもりを背負った状態で戦っていたことも特筆すべきポイントだ。そう、遠藤選手は3kgの重りを背負って高速でボートを操艇していたのである。  70年の歴史が変わった。だが、それはボートレースの歴史だけではなく、全てのモータースポーツの歴史として特筆すべき出来事だと思う。今後、遠藤エミ選手に憧れた女性がレーサーを目指し、ボートレースで女子の活躍が増えるようならば、いよいよ「男か女か」ということが気にならなくなる日も遠くないのかもしれない。とはいえ、道を切り開いた遠藤エミ選手や、これまで多くの女子レーサーが戦ってきた歴史の積み重ねは記憶しておくべきだろう。 文/佐藤永記
公営競技ライター・Youtuber。近鉄ファンとして全国の遠征観戦費用を稼ぐため、全ての公営競技から勝負レースを絞り込むギャンブラーになる。近鉄球団消滅後、シグナルRightの名前で2010年、全公営競技を解説する生主として話題となり、現在もツイキャスやYoutubeなどで配信活動を継続中。競輪情報サイト「競輪展開予想シート」運営。また、ギャンブラーの視点でプロ野球を数で分析するのが趣味。
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