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「私は映画『牛久』に騙された」外国人収容所での隠し撮り、出演者が怒るワケ

ルイスさん以外にも「監督に騙されて出演した」という元被収容者がいる

悲しい空イメージ 以上、ルイスさんの訴えを聞いたうえで、多くの人に考えていただきたい。冒頭で述べたように、世の中に訴える映画であれば、そこに出演している人たちの心は踏みにじられても良いのだろうか? ルイスさん以外にも数人の元被収容者が「アッシュ監督に騙されて映画に出演した」と訴えていると聞く。しかし彼らはその不安定な立場から、表立って声を上げることはできずにいるという。  上記の件について「日刊SPA!」編集部が映画制作者側の見解を聞いたところ、『牛久』の配給会社である「太秦」の小林三四郎社長は以下のように回答した。 「事前に監督には『出演される方の同意をとってほしい』とお願いしていました。監督からは、『同意書を得るのに問題はなかった』ということでした。弁護士さんにもそれを確認していただいて、『問題はない』ということで公開に踏み切りました」  アッシュ監督の見解については、代理人弁護士を通じて得ることができた。 「『牛久』出演にあたって、そのような(ルイスさんの『過去』を伝えたいという)内容の『合意』をした事実はありませんし、出演の条件となっていた事実もありません。  昨年(2021年)3月に、ご本人が出演する部分について、全編については昨年5月にルイスさんにご覧いただき、昨年9月に同意書をいただいたと承知しています。そのほか試写会など何度となく内容をご確認いただいていますが、ご意見をいただいたり修正を求められたりしたことはありません。  また監督は、ルイスさんの家族について『牛久』とは異なる作品で取りあげる意向をお伝えし、進め方についても相談してきました。さらにルイスさんは記者会見に参加し、舞台挨拶にも登壇され、自らの過去について発言する機会は何度もありました。監督として協力できるものについては協力してきています。  また、監督に対して『騙された』との趣旨で申し出や苦情を伝えた出演者の方はいらっしゃらないと承知しております」(東京合同法律事務所・馬奈木厳太郎弁護士)  しかし筆者は監督が述べるこれらの「事実」は、同意書にサインした時期なども含めて事実と合わないことを、ルイスさん本人の証言やSNSの記録などで確認している。そして上記のように、ルイスさんの意見が受け入れられず、監督にごまかされ続けてきたという事実も確認している。

なぜ弱い立場の者が我慢を強いられるのか?

 支援者たちに言いたい。この映画に頼らずとも、この入管問題は大きくなってきている。まだまだ諦めさえしなければ、この先も多くの人たちに関心を持ってもらえるだろう。当事者を支援している人たちも、1人でも傷ついている当事者がいるならば、その映画を応援するということは矛盾していないだろうか。  この映画を賛美したメディアにも言いたい。監督の「みんなの許可を快く受けている」などという欺瞞をそのまま垂れ流すのではなく、「そうではなかった」という弱い立場の声にもしっかり耳を傾けるべきではないか。  出演者たちから確認書にサインをもらったことで「法律的には問題ない」のかもしれないが、その手法に問題がある。不安定な立場にある彼らが安心できるような配慮や、丁寧な説明がもっと必要だったのではないだろうか。「映画に出たい」との覚悟を決めている当事者を応援することはいいだろう。だがこの映画で騙され踏みつけにされた人たちもいることに蓋をするべきではない。  日本を頼ってきたというのに、入管によって苦しめられている人々がいる。そのことを伝えるはずの映画なのに、その当事者たちが映画のせいで苦しめられているのであれば、本末転倒ではないだろうか。 文・写真/織田朝日
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)

ある日の入管~外国人収容施設は“生き地獄”~

非人道的な入管の実態をマンガでリポート!

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マスコミが報道しない、非人道的な
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