更新日:2022年04月13日 00:55
エンタメ

「私は映画『牛久』に騙された」外国人収容所での隠し撮り、出演者が怒るワケ

外国人収容所での「隠し撮り」に賛美の声も

映画『牛久』の公式サイトより

映画『牛久』の公式サイトより

 どんなに世の中に訴えることのできる素晴らしいドキュメンタリー映画だったとしても、被写体の尊厳を傷つけ、誰かの犠牲のもとに作られた映画は本当に素晴らしいものだと言えるのだろうか。  現在、全国各地で上映中の『牛久』は、茨城県にある東日本入国管理センター(牛久入管)の中にある外国人収容所をテーマとしたドキュメンタリー映画だ。撮影禁止となっている面会室を、トーマス・アッシュ監督とその協力者が「隠し撮り」した映像が収められている。  監督は「日本の収容所では外国人に対して非人道的なことが行われている。こんなにひどいことは多くの人々に伝えねばならない」とアピールした。誰もやったことのない収容所での「隠し撮り」という手法に、賛美の声や監督を英雄視するような声も多くあがっている。  しかし、実際に収容され「隠し撮り」されていた立場の人たちはこの映画についてどう考えているのだろうか。もちろん、被写体となる当事者たちが心から納得をしているのであれば良いのかもしれない。しかしそうでなかったとしたら? それが、ビザを持たない弱い立場であるために「支援」を盾に取られて口を封じられているとしたら? それがもしも複数であったとしたら大問題ではないだろうか。筆者は出演者の一人、ルイスさんの声を聞いた。

映画に出演した当事者から批判の声が

映画『牛久』について語るルイスさん

映画『牛久』について語るルイスさん

 牛久入管に収容中だったカメルーン人のルイスさん(現在は仮放免中)に、トーマス・アッシュ監督は面会室でこう言ったという。 「面会ボランティアたちはダメだ。20年やって何も変えることもできないし、あなたたちの状況を世に伝えることもしないでしょう。私はあなたを助けることができる。あなたの声は世界に届く」  ルイスさんはこの時、「監督の言う通りだ」と思った。牛久入管に来るボランティアに対し、イラつきを抱えていたのはルイスさんだけではない。「メディアの話題になりそうな話は取り上げてくれるが、そうでもなさそうな話は知らんぷりだ」と、何も変えてくれないボランティアたちへの怒りが燻り続けていたところだった。このようにアッシュ監督はボランティアを批判し、「自分は彼らとは違う」ということをアピールしていたという。  監督はさらにイラストなどを描いてルイスさんが望むような映画ができることを伝え、ルイスさんはそれを完全に信じ切った。しかし完成した映画には、ルイスさんが「多くの人に知ってほしい」と望んでいた内容は一切含まれず、収容所の中について話している部分だけが切り取られていた。 「私の伝えたかったこと、難民として日本へ来て、事件に巻き込まれて家族を失ったこと、誰も私の声を拾ってくれませんでした。だからトーマス(監督)の言葉は嬉しかった。それを信じて映画に出ることを承諾したのです。  トーマスは、面会に来るたびに被収容者たちにお金を配っていました。そんなことをしてくれるボランティアなどいません。施設内で食べ物などを買えるし、収容されている身としては大いに助かりました。だからみんな最初は喜んでいたんです。  でも完成した映画を観て、私は騙されていたことに気づきました。トーマスは日本の入管問題を伝えたかったというよりも、誰もやったことのないセンセーショナルな映画が撮りたかっただけでした。私はそのための“コマ”にされたんです。難民の人たちはそれぞれ個々の事情があって、世の中に伝えたいのは収容所内のことだけではないのに……。  今は悔しい気持ちでいっぱいです。もともと持っていた痛みや怒りが10倍になったかのようです。こんな思いをするのなら、出演しなければよかったと今は思っています」
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出演同意書にサインした後に見せられた「隠し撮り」
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おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)

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