更紗役の広瀬すず(左)と、文役の松坂桃李。(c)2022「流浪の月」製作委員会
『フラガール』『悪人』『怒り』の李相日監督が、「2020年本屋大賞」で大賞受賞の同名小説を映画化した『流浪の月』が公開され、高い評価を集めている。帰りたくないと話す10歳の少女・更紗を自宅に招き入れたことで、誘拐罪で逮捕された大学生の文。被害女児と加害者という印を押されたふたりが、15年後に思わぬ再会を果たす物語だ。
撮影監督を務めたホン・ギョンピョ。(c)2022「流浪の月」製作委員会
心の奥深くに入りこんでくる、李監督の演出。成長した更紗役の広瀬すずと、文役の松坂桃李の芝居。それらに加え本作を印象深いものにしているのが、独特の温度感を伴う映像だ。撮影監督を務めたのはホン・ギョンピョ。『パラサイト 半地下の家族』『バーニング 劇場版』『スノーピアサー』『イルマーレ』『反則王』などを手掛けた名カメラマンに、本作にまつわる撮影エピソードに始まり、「普段、スマホのカメラでも写真を撮るのか?」といった素朴な疑問もぶつけてみた。
ポン・ジュノ監督が好きだと言っていた広瀬すずとの仕事
(c)2022「流浪の月」製作委員会
――もともと李監督とは、ポン・ジュノ監督の現場でお会いしていたそうですね。
ホン・ギョンピョ:ポン・ジュノ監督の『パラサイト』の現場でお会いしました。パク一家の豪邸のシーンを撮影していたときです。李監督の映画は観ていて、ずっと好きでした。特に『怒り』がとても好きで、「この監督と一緒に仕事ができたらいいな」と思っていました。その後、ポン監督を通じてお電話で今回のお話をいただいて、すぐに「一緒にやりましょう」とお返事しました。
――以前、ポン・ジュノ監督と是枝裕和監督が対談したドキュメンタリーが放送され、ポン監督が「日本の俳優で好きなのは広瀬すずさんだ」とお話されていました。ポン監督より先に、広瀬さんとお仕事することになりましたね。
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ホン:『流浪の月』の予告編をポン監督と一緒に観たのですが、広瀬さんのことを「とても大人っぽくなりましたね。成熟した俳優さんになりましたね」と話していました。僕もご一緒できてとても良かったです。広瀬さんの作品は昔のものまでいくつも拝見していましたが、今回の作品を通じて、本当に成熟した大人の俳優になったと感じましたね。演技がとても深くなっていると思いました。
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――広瀬さんと松坂さんによるクライマックスの“文の告白”シーンはまばたきもできませんでした。ホンさんの提案で、当初の予定とは違う時間帯に撮影されたとか。
ホン:あのシーンは、私のなかでも印象的なシーンにしたいという気持ちが強くあり、とにかくリハーサルを重ねました。悩みましたし、苦心しながら作り上げていきました。最初は夜に撮影しようと進んでいたんです。でも実際にカメラを回してみて、デイシーンとして撮ったほうがいいんじゃないかと感じました。デイシーンでありながらも、少しぼやけた薄暗い青い光が漂っているような、そんなイメージの時間帯に撮りたいと思いました。
文のフルショットを、シルエット的に撮りたいと思ったからです。大きな窓と、文の身体のシルエットをあの場所で撮りたいというのは最初から頭にありましたが、どの時間帯に撮るかがとても重要だったので、李監督ともよく話し合いました。広瀬さんと松坂さんの演技も素晴らしく、とても集中力のあるお芝居を見ることができて、本当にいいシーンになったと思います。
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異。X(旧Twitter):
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【公開情報】
『
流浪の月』は全国公開中
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