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限界に挑むこと。それはおっさんには永久にできない、若者だけの特権だ

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僕はその頃、50メートル走の記録をいかに更新できるかに挑戦していた

 中学生の頃だった。このとき、体育の授業を利用して毎週、50メートル走のタイム測定が行われていた。こういった中学校などでの体育の授業は本当に不思議なのだけど、タイムを測定するけど速く走る方法は教えてくれない。ただ漠然と、毎週のようにタイムを計ることだけが繰り返されていた。  その時、僕のタイムは7.1秒だった。小学生くらいの頃は足が遅かった僕も、やっと体の使い方が分かってきてちょっとずつ速くなってきた感じだった。ただ、どうしてもこの7.1秒が限界だった。  どうしてもそのタイムを縮めたくて奮闘していたのだ。50メートルのタイムが6秒台となると、印象的にも「足が速い」部類に入るからだ。7秒台と6秒台ではずいぶんと印象が違う。だからどうしても7.1秒から6.9秒まで縮める必要があった。  ただし、何度も言って申し訳ないけど、当時の体育の授業は漠然とタイムを測ったり、漠然と走らせたりするものの、早く走る方法やそのためのトレーニング方法を教えてくれるものではなかった。

ふと、神のようなアイデアが思いついてしまった

 見よう見まねで筋トレしてみたり、夜中にランニングしてみたり、とにかく限界を突破するために様々な努力をしたと思う。それでもなかなかタイムは縮まらず、7.1秒のままだった。  そして半年にわたって行われていた50メートル走のタイム測定があと2回で終わることが連絡された。チャンスはあと2回だ。あと2回で限界を突破し、6秒台の男になる必要があった。その事実が僕の心に重くのしかかった。  しかし、現実問題として限界を突破するのは難しそうだった。いまさら筋トレを増やしてもおそらくすぐには効果が出ないし、逆に筋肉を疲れさせてしまいタイムが落ちることだってありうる。いまさら走り込みを増やしたところで劇的にタイムが伸びるとも思えない。すっかり困り果ててしまった僕は、ひとつの結論に辿り着いた。 「オナラはどうだろう?」  つまり、走っている最中にオナラをすることにより、その排出の勢いで加速しようというものである。イメージ的にはロケットの推進力と同じだ。あれだけけっこうな勢いで出るオナラだ。かならずやいくらかの加速度を与えてくれるはずだ。もうオナラにでも縋らないと限界を突破できない。そこまで追い詰められていたのだ。
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いよいよ測定の日、「それ」を実践することにした
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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