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「電波を飛ばして……」広岡達朗が明かす昭和プロ野球”サイン盗み”の闇

 門田博光、田尾安志、広岡達朗、谷沢健一、江夏豊……昭和のプロ野球で活躍したレジェンドたちの“生き様”にフォーカスを当てた書籍『確執と信念 スジを通した男たち』。  大男たちが一投一打に命を懸けるグラウンド。選手、そして見守るファンを一喜一憂させる白球の行方――。そんな華々しきプロ野球の世界の裏側では、いつの時代も信念と信念がぶつかり合う瞬間があった。あの確執の真相とは? あの行動の真意とは? プロ野球界に飛び込んで68年、御年90歳を迎えたレジェンドである広岡達朗が今明かす”信念”の行方とは――(以下、同書より一部編集の上抜粋)。

名将とサイン盗み

 東京ヤクルトスワローズの功労者というと、真っ先に野村克也の名が挙げられる。’90〜’98年の9年間、ヤクルトの監督を務め、リーグ優勝4回、日本一が3回の実績は功績として確かに申し分ない。だが、広岡は毒づくようにこう断言する。 「野村が名監督と言われて褒められるのは心外。阪神で監督を務めた3年間はすべて最下位だったのに、名監督と言えるのか!?」  決して嫉妬からではなく、南海時代から野村と懇意だったからこそ吐ける言葉でもある。 「野村のことはよく知っている。息子の団野村にしても『英語ができるので何かいい働き口ありませんか?』と頼まれ、せっかくだからと思ってアメリカのルートを紹介してやった。俺が西武の監督を務めていた頃、解説者だった野村が『ヒロさん、いいなあ、何もせんでも勝てるから』って言ってくるから、『俺はな、2月にやるべきことをやっとるんだ。サインひとつとってみても、失敗したら損だなと考えたことがない。できるんだと信じてサインを出す。お前らは損得でサインを出すからダメなんだ』と怒ったことがある。申し訳なさそうに頭を下げていたよ」  自主トレ期間から選手を徹底的に鍛え上げ、常に意識を高く持って貪欲に勝つための集団を作り上げていく。その過程を見ないで、自分の損得で指導する後輩に腹が立って仕方がなかった。

スタンドから球種を……

 野村といえば、南海時代はサイン盗みで有名だった。 「現役のとき大阪球場はガラガラだったから、グラウンドキーパーがプレーボールとともにセンターのスタンドに行って、捕手が出すサインを盗んで球種を教えていた。だから野村はきわどいカーブでも絶対に振らなかった。もともと打てる奴が球種を教えてもらったら、もっと打てる。監督になると〝電波〟を使った。太ももの内側に受信機をつけて、ベンチから発信機で送信する。ピッピッはまっすぐ、ピッはカーブといった具合でね。あるとき南海のバッターが『監督、今日電波がちょっと強かったですね』と言ったのを聞いた証人がいる。  三原(修)さんもやってた。ヤクルトの監督時代、コーチの武上(四郎、元ヤクルト監督、故人)が言っていた。『三原修のマジック野球なんかないです』。三原さんがヤクルトの監督をやっていた時代、トラブルがあって三原さんがマウンドに行っている間、武上がベンチにあるすべてのカバンの中を探し、盗聴器を見つけた。相手のベンチの会話が筒抜けだった。外国人選手に『センターから教えてもらう球種がよくわからないときにはタイムをかけろ』って指示していたと。阪急の上田(利治)もインチキ。ベンチや球場内に盗聴器を仕掛けてミーティングは筒抜け。西宮球場で試合をやるときはグラウンドに出てから選手を集めて『ここからが本当だから……』とミーティングをやっていた。中日から来た牧野(茂、川上の名参謀と呼ばれたV9のヘッドコーチ)なんか『カンニングしたほうが楽ですよ』って川上さんに言った。川上さんも苦労したろうなぁ。あの当時は70パーセントがインチキ」
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インチキがどうしても許せなかった理由
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

92歳、広岡達朗の正体92歳、広岡達朗の正体

嫌われた“球界の最長老”が遺したかったものとは――。


確執と信念 スジを通した男たち確執と信念 スジを通した男たち

昭和のプロ野球界を彩った男たちの“信念”と“生き様”を追った渾身の1冊


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