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谷沢健一が明かす星野仙一との確執。「星野のせいで監督になれなかった」の真相は

 門田博光、田尾安志、広岡達朗、谷沢健一、江夏豊……昭和のプロ野球で活躍したレジェンドたちの“生き様”にフォーカスを当てた書籍『確執と信念 スジを通した男たち』。  大男たちが一投一打に命を懸けるグラウンド。選手、そして見守るファンを一喜一憂させる白球の行方――。そんな華々しきプロ野球の世界の裏側では、いつの時代も信念と信念がぶつかり合う瞬間があった。あの確執の真相とは? あの行動の真意とは? 中日ドラゴンズの主軸として歴代屈指の成績を残した強打者、谷沢健一。彼が引退後も貫き続ける信念、そして噂され続けたあの”闘将”との確執の真相とは――(以下、同書より一部編集の上抜粋)。

「星野のせいで谷沢が監督になれなかった」は本当か

 通常の取材では身近な話題から質問を投げかけ、場を温めてから本題に入るスタイルを取っている。しかし、谷沢が作り出す空気感がよほど心地良すぎて麻痺したのか、気が大きくなった自分がいた。4番ファースト谷沢に小細工は通じない。ライターの使命よりも何よりも、一ファンとして聞きたいことを最優先にした。  星野仙一との確執についてだ。 「星野のせいで谷沢が監督になれなかった」。ファンの間では喧伝されている。内情はどうあれ、中日一筋で活躍した球団が誇るレジェンドであるはずの谷沢が監督になっていないのは事実だ。元号が昭和から平成に代わり、そして令和になった。その間、中日の監督は何人代わったことだろう……。さかのぼって監督の名を思い出しても谷沢の名前は絶対に出てこない。たまらなく切なかった。その切なさを昇華したいがため、谷沢の口から星野との関係をまずは聞いておきたかった。 「星野さんとの確執がどうのこうのって言われるけど、まったくないです。プロ入り当初は、一緒にオーバーホールしに広島へ行ったりしてましたから。ただ、シーズンに入る前、僕の自宅に選手を集めて決起集会をやっていたんだけど、そういうのを星野さんは嫌がったみたい(笑)」  この質問がくるのを予想していたかのように悠然たる佇まいから即座に否定した。ただ最後の言葉が気になった。「確執」とは両者とも相手に対して腹に一物を抱えている状態のことであり、厳密には片方が何も思ってなければ確執でない。しかしだ。光の屈折と同じで、一方から見た場合にどうとでも見える。

後輩・田尾安志が語る星野仙一像

 谷沢と師弟関係にある田尾安志は、谷沢と星野の関係性についてこう語ってくれた。 「谷沢さんは派閥を作らない人で、そういうことにまったく無頓着です。星野さんは親分肌なので自分になびく人には面倒見がいいんですけど、なびかない人に対してはほっとけばいいのになんらかの圧力を加えてしまう。一度、星野さんから紹介された自動車関係の方から『田尾くん、星野さんと喧嘩したのか? 何か田尾と付き合うなって言われたから』って言われたことがあって、怒らせた覚えがないから直接星野さんの家に行って『僕、何か失礼なことをしましたでしょうか』って聞きに行ったことがあるんです。星野さん、罰が悪そうにしてましたけど。どうやら谷沢さんとメシとか飲みに行っているのが気に喰わなかったみたいです」  星野の家に直接行く田尾も田尾だが、星野〝親分〟は全員を自分の手下に置いておかないと気が済まないタチらしい。田尾や宇野勝が谷沢と一緒に行動をともにすると、取られた気がするのだろう。田尾の話を聞いていると、星野は一大勢力を築いて王様になりたいほど権勢欲に囚われていた気がする。自分に擦り寄ってこない奴は全員ぶっ潰す。これじゃあ暴君だ。権力を誇示する人生が一番だと思うならそれはそれでいい。ただ、権力を手に入れるため他人をあざむき陥れる人間は外道ではないか。
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谷沢に引退勧告をしたのは誰か
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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