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最終回を迎えた朝ドラ『ちむどんどん』。沖縄での“ホントの評価”とは?

それでもヒロインの評価は沖縄でもイマイチ

 問題は、ヒロインである次女・暢子役の黒島結菜だ。演技力に定評がある実力派女優として、今作でもオーディションなしでヒロインに抜擢された肝入りのキャスティングだったはずだ。何より、彼女も沖縄出身者だ。『ちむどんどん』放送前に封切られた映画『明け方の若者たち』では不倫する人妻役を演じ、’19年後期放送の朝ドラ『スカーレット』でも不倫に走る女性役を演じたことで話題となった。つまり、“ワケあり”の演技は上手いのだが……今回の天真爛漫な役どころでは、残念ながら沖縄でも“賛”より“否”の声のほうが大きい。 「正直、『ちゅらさん』の国仲涼子と比べると、純粋さがないのよね」(沖縄出身・在住の30代後半女性)。  彼女以外の沖縄県民からも同様の声が多く聞かれた。「演技が鼻につく」、「脚本の稚拙さによるヒロインの行動がムカつく」といった批評がSNSでは飛び交ったが、沖縄で受け入れられなかった一番の要因は「ピュアさがない」のひと言に尽きるようだ。初めて沖縄を舞台に制作された朝ドラ『ちゅらさん』のヒロインの国仲涼子は、演技のドシロート感を充分補えるほどキラッキラッとした純真さに包まれていた。『ちゅらさん』自体も朝ドラとしては異例の続編が制作されるなど評判は上々。「沖縄が舞台の朝ドラヒロインはこうでなくっちゃ」と県民に刷り込まれるに十分なフレッシュさがあったのだ。  一方、黒島は勢いだけで、すべてにおいてすっとこどっこい感でフレッシュさよりも空気の読めなさが際立った。もし、今回の比嘉暢子というキャラクターが“朝ドラ史上初の嫌われ主人公”という脚本上の試みだったとしたら大成功だったと言えるが……。

脇役を生かしきれなかった

 キャストに関してもう少し言うと、『ちゅらさん』ではガレッジセールのゴリ(『ちむどんどん』の最終回にタクシー運転手として熱演)をニーニー役に起用したのが、県民にとっては相当嬉しかったという声もよく聞かれた。  天下のNHKが、まだ駆け出しの沖縄出身芸人を大抜擢してくれたことで、ドラマとの距離が近づいた。そう考えると、『ちむどんどん』のキャストは、脇に良い俳優を固めてはいるのだけれども、なんだか生かしきれていない。沖縄出身の超ベテラン俳優の津嘉山正種や、最終週に登場した草刈正雄が沖縄戦に絡めたストーリーで涙を誘う演技を見せてくれたものの、物語の本筋とは関連性が希薄なためパッチワーク感しかなく、感動が連鎖しない。片岡鶴太郎は鶴見の県人会会長役でレギュラー出演していい味を出していたが、真面目なシーンになると刑事の取り調べにしか見えなかった。  ただ、“ヤンバルのスナフキン”ことまもるちゃん(松原正隆)はとっても良く演出されていたという声が頻繁に聞かれた。優子と一緒に収容所からヤンバルの村に移り住み、一言も発せずにヤンバルの共同売店で働き、子どもたちにも優しく接し、白いシャツとオーバオールに島ぞうり、白のパケットハットを被って、暇なときは体育座りで『吾輩はねこである』を読んでいる。かつての沖縄は、少し障害を持っている人に対しても優しく、市場などでみんなから大事にされながら働いていた慣習があった。それが“ゆいまーる(助け合い)”だ。まもるちゃんの存在は沖縄の古き良き時代の象徴として描かれていたとして県内では上々の評価だった。
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「沖縄を描いているのにアメリカ人が出てこないのは不自然」
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1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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