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安倍政治を検証した『妖怪の孫』。現役官僚たちの“叫び”がリアルだった

 菅前総理と自民党政治の本質を突いた『パンケーキを毒見する』の続編、『妖怪の孫』が全国で絶賛公開中だ。「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介の孫、安倍晋三元首相をSNSを駆使したマスメディア対策、統一教会問題、憲法改正など多角的な観点から検証した本作は、公開後から満席が続出、上映後に拍手が起こっている劇場もあるという。8年間もの長期政権を維持し、「美しい日本」「アベノミクス」など、数々のキャッチフレーズと共に大人気を博した安倍政権とはいったい何だったのか――。前作に続き、今作も監督を務めた内山雄人さんに制作の背景や作品に寄せる思いなどについて聞いた。 【前作『パンケーキを毒見する』の記事】⇒「菅総理はサラリーマン的に“人事”で脅す。笑うしかない裏側に迫る<前編>」 【前作『パンケーキを毒見する』の記事】⇒「「菅総理はトップの器じゃない」パンケーキにダマされた<後編>」
内山雄人

内山雄人監督

今のテレビでは絶対できません

――本作は、前作『パンケーキ~』のプロデューサーである故河村光庸スターサンズ社長の企画だったとのことですが、この映画の監督を引き受けた理由についてお聞かせください。 内山:右左といった思想や政治的な傾向の問題ではなく、客観的な事実を元に「政治をきちんと検証してみたい」という思いがありました。前作の『パンケーキ~』もそうですが、今回も「安倍政権の軌跡をきちんと検証してみよう」という姿勢があるだけで、「反安倍」を掲げる気は全くないです。むしろ、「何をしたか」という事実のみをきちんと並べて紹介したかった。 本来はテレビの2時間の特集番組でできることなのですが、今のテレビでは絶対できません。それをやるべきと発する人もいない。『パンケーキ~』でも描かれていた本作の企画プロデューサー・古賀茂明さんの「I am not ABE」発言をきっかけにした報道番組の降板がありましたが、「圧力がかかるかもしれない」という忖度があるせいか、この種の検証をテレビでは全くやらなくなった。それならば「映画」で描こうと。 統一協会の友好団体と自民党が「政策協定を結んでいた」というニュースが流れましたが、人権の問題や二世の問題とは別に、「政策が歪んだ」ということも統一教会問題を語る上で見逃せない点です。同じことが財界、いわゆる電気業界や自動車業界等にも起きており、劇中ではその事実についても触れています。そういう意味で日本社会のあらゆる場所で自民党との癒着関係が存在し、それによって票が大きく動き、政策の変更が頻発していることが今回の映画で伝わるのではないでしょうか。 そこからは、自民党政権が利権や癒着でがんじがらめになっていることから生じる「日本の舵取りの歪み」「経済的なチャンスを逃している政治」が見えてくる。安倍さんの足跡を辿りながら、「自民党の構造」を伝えられればいいと思っています。 とにかく安倍さんは選挙に勝ち続けてしまったが故に、さまざまな疑惑がなし崩し的に「もう禊は済んだ」という結論に落ち着いていました。結局、「モリカケ桜(森友学園・加計学園・桜を見る会」があっても「選挙に勝ったのだからもう言わなくていいんじゃない?だって、国民が認めてくれたし」という雰囲気があったので、逆に、なぜ選挙にそこまで強いのか、というところを検証したかったんです。

若い世代にも刺さる“自民党の発信力”

――映画冒頭では、自民党のSNSも含めたメディア対策、演説内容まで指導する選挙対策について、西田亮介教授が解説しています。 内山:自民党の情報発信力は本当にパワフルです。どんな手を使ってでも自分たちのメッセージを届けようという情熱、熱量が他の党とは全く違う。「これだけやっている」という客観的な事実を並べましたが、そこには「野党ももう少し頑張ってほしい」という意味合いも込められています。 自民党の発信は若い世代に深く刺さっているので、若い世代は自民党を悪いと思わない。あれだけバラエティ出ることも、今までの総理はして来ませんでしたが、それをサラッとやってのけて、「安倍さんって素敵よね」と思わせる。そうすると、誰も悪く言わなくなります。 自民党は2009年の秋に野党になったことで、覚醒しました。第1党であった時は、何もしなくてもメディアは「(情報を)教えてください、教えてください」と集まってきた。その頃は、自然に情報発信できていたのに、野党になった途端、当たり前のことですが、記者は民主党の方に行くようになった。 提案したいことがあっても、誰も聞きに来ない。これはまずいということになり、自民党は本気になって、メディア対策をやり始めたそうです。自分たちが本気で勝つには、まず情報発信しなくてはいけない、そして、メディアをこちら側に引き寄せてこないといけない。しかも、自分たちを報じるメディアも自分たちが全て選ぶのだと。そこで「メディアを選ぶ」という発想が出て来る。そして、自分たちが握っているので、メディアに対して強気の態度を取ることもできるわけです。
安倍元首相

©︎2023「妖怪の孫」製作委員会

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現役官僚たちの心の叫び
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ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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「妖怪の孫」
新宿ピカデリーほか全国順次公開
企画:河村光庸
監督:内山雄人
企画プロデューサー:古賀茂明
製作:「妖怪の孫」製作委員会
制作:テレビマンユニオン
配給:スターサンズ
©︎2023「妖怪の孫」製作委員会
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