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「なぜ、私は原発を止めたのか」元裁判長がすべての日本人に知ってほしいこと

民事訴訟は当事者主義が原則

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――「専門家の判断を尊重する」という基準に基づく判決が続いているとのことですが、そこを疑って一から調べるか否かは、裁判官のスタンスによって異なるということでしょうか。 樋口:もちろん、民事訴訟は、私的自治の原則から、当事者の主張のみが審理の対象になるという当事者主義に基づいて行われます。それはどの訴訟も変わりません。ただ、その主張をどのように判断するかは、裁判官によって変わります。 裁判官が、当事者の主張立証のみに基づいて判断するか、積極的に当事者に主張立証を促すかは裁判官のスタイルなので、どちらが正しいのかは一概に言えません。

住民側の弁護士も被告の主張に乗せられている

――法廷で、原発差し止めを主張する原告住民側弁護士に対し「我が国では700ガル以上の地震は何回来たのですか」と尋ねても、弁護士は回答してくれなかったとのことでした。 樋口:強い地震に原発が耐えられないことは双方ともに争っていませんでした。当時の基準地震動である700ガル程度の地震でも危険が生じる可能性は明らかでしたし、被告関西電力も1260ガルを超える地震が来れば打つ手がなくなることを認めていました。つまり、震度6の地震が来れば危うくなり、震度7が来れば絶望的な状況になるということです。 しかし、関西電力は「基準地振動である700ガルを超える地震は大飯原発の敷地には来ないので安心してください」と主張していた。つまり、「強い地震が来ないということを予知できる」という関西電力の主張が信頼できるかどうかが本当の争点だったのです。 そこで、原発を差し止めたいのであれば、700ガルが普通に起こり得る地震であることの立証が必要なので、原告側に「700ガル以上の地震は何回来たのですか」と尋ねました。しかし、住民側弁護士はこれに応じてはくれませんでした。 私はそのことを疑問に感じていたので、退官後、住民側弁護士に「なぜ応じてくれなかったのか」と尋ねたところ、「原発設計の基準となっている解放基盤表面(地下の岩盤)での揺れと地上の観測記録の揺れは違うから比べられない」とのことでした。このことは電力会社によって広く流布されていて、脱原発派であろうがなかろうが多くの人が信じ込んでいます。 しかし、原発が強い揺れに襲われた5つの事例すべてにおいて、解放基盤表面の揺れが周囲の地表の揺れよりも小さかったという事実はなかったのです。したがって比べることができるのです。 また、観測記録において、700ガルを超える地震動が観測された地点が1ヵ所に過ぎなかったとすると、その場合には「700ガルを超える地震動は地盤が軟らかい場所で観測されたもので、大飯原発の敷地とは違うので大飯原発の敷地には700ガルを超える地震は来ない」という認定が可能ですが、700ガル以上の地震が頻発していれば、その認定は難しい。この論理は地震の揺れの計測地点についての専門技術的な知識がなくてもわかるはずです。
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