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「革命への確信」を49年間追い続けた男。東アジア反日武装戦線「さそり」元メンバー桐島聡の逃亡生活を元日本赤軍の映画監督が描く

三菱重工ビルなどの企業施設の連続爆破を実行し、社会を震撼させた東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー・桐島聡の半世紀にわたる逃亡生活を描いた『逃走』が全国で公開中だ。 監督は足立正生。若松孝二作品の脚本を量産、大島渚作品にも参加した後、パレスチナへ行き日本赤軍へ合流、30年近く日本を離れたが、帰国後再び映画監督として活動を再開している。そして、エグゼクティブプロデューサーを引き受けたのはライブハウスロフトグループ代表の平野悠。運動に身を投じた後にライブハウスを起業、数々の伝説を残してきた〝場″を作った。彼らはなぜ、この作品を今の時代に放ったのか、話を聞いた。

プロデューサー平野悠氏(写真左)と足立正生監督

贖罪の気持ちを描く

本作の試写状ハガキから最初に目に入ったもの、それは、犯罪のイメージとは程遠い、遠くを見据えるような鋭い眼光と精悍な表情だった(言うまでもなく、それは桐島を演じた俳優の古舘寛治さんと杉田雷麟さんのビジュアルである)。そしてその時、ふと思い出したのは、手元にあった1冊の本だ。鈴木邦男著『東アジア反日武装戦線と赤報隊』(彩流社)。故鈴木邦男さんのドキュメンタリーである中村真夕監督『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』(20)の取材をした 際、購入したもの。そこには連続企業爆破事件で逮捕された実行犯たちが非常に真面目で優しい人たちだったことに対する驚きが綴られており、反面、なぜ彼らが追い詰められて犯行に及んだかの謎解きにも似た独自の論考も試みられていた。 一連の報道では、逃亡犯桐島は「内田洋」としてひっそりと真面目に暮らしていたという。この映画を見れば、本を読んだだけでは掴めきれなかった何かがわかるのではないか――。 そんな思いを抱えながら、1月下旬のある日、試写会へ足を運ぶと、場内は満席。外国人の姿も見られた。一人の男性の静かな生活と心の葛藤を描いており、いわゆるステレオタイプの左翼色に染まった作品とは無縁のものだった。 高度成長期、その後のバブルの熱狂・崩壊、失われた20年、東日本大震災後の閉塞感。その中に「内田洋」として存在し、それらを横目で見ながら、自分が関与した事件が尊い命を奪ってしまったことに対する贖罪の気持ちと共に、どのように生きるべきかを自問自答し続ける桐島。そこには、鈴木邦男さんが「彼らを運動に追いやったものは何か」の一つの答えがあったような気がした。と同時に、作品は「逃亡犯桐島聡」を客観的に描くというより、桐島が内田洋として生きる中で体感したであろう原風景を体現したもののようにも感じた。

映画監督から運動へ

映画が終わると「この映画のすべての責任は私が引き受けます。批判はお寄せください」と足立正生監督は言い切った。その言葉には一点も曇りもなかった。1971年、カンヌ映画祭からの帰国途中に若松孝二監督と共にパレスチナへ渡り、同解放人民戦線のゲリラ部隊に参加、『赤軍ーPFLP 世界戦争宣言』(71)の撮影・監督を務め、その後日本赤軍に合流、「海外出張」と称して長きにわたって国外で運動に身を投じた足立監督だからこその想いがあったのではないか。 運動に参加する前の桐島は弁護士志望だった。法律の勉強をしていたことや、他のエピソードからも強固な理想主義者だったことが窺える。 他方、足立監督は運動に身を投じる前は、若松孝二監督とピンク映画を量産、大島渚監督とは脚本を担当するだけでなく、死刑制度、民族問題、戦争責任等の矛盾に正面から取り組んだ『絞首刑』(68)では俳優として参加、保安課長を演じた。 弁護士志望から運動家へ転じた桐島。対して、映画から運動家へ、そして再び映画へ進んだ足立監督。足立監督が桐島の生き方に見たものは何か。そして、平野プロデューサーはなぜこの映画の製作を決断したのか――。筆者は、インタビューを申し込んだ。
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逃走=闘争というメッセージ
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ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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『逃走』

監督・脚本:足立正生
出演:古舘寛治 杉田雷麟 中村映里子
企画:足立組
エグゼクティブプロデューサー:平野悠 統括プロデュ―サー:小林三四郎
  アソシエイトプロデュ―サー:加藤梅造 ラインプロデューサー:藤原恵美子
  音楽:大友良英
撮影監督:山崎裕 録音:大竹修二 美術:黒川通利
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:清水美穂
編集:蛭田智子 スチール:西垣内牧子 題字:赤松陽構造 キャスティング:新井康太
挿入曲:「DANCING古事記」(山下洋輔トリオ)

【2025年|日本|DCP|5.1ch|110分】(英題:ESCAPE)©「逃走」制作プロジェクト2025
  配給・制作:太秦  製作:LOFT CINEMA 太秦 足立組
公式:kirishima-tousou.com
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